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妄想雑記

流しのカレー

はじめに断っておくと、キッチンのシンクに放置されたものの話じゃない。

 

これは僕が旅行へ行った際、現地で大衆食堂と場末の居酒屋がドッキングしたような店で飲んでいた時の思い出だ。

 

木製のテーブル、四人分の角ばったイス、敷かれた座布団。店の中はほどほどに繁盛していて、僕らは思い思いに注文をし、ビールを飲んでいた。

ふと、”突撃隣の晩ごはん”のリポーターを思わせる男性と、割烹着姿の女性が店に入ってきた。男性は「こんばんは~、○○名物のカレーでございます~」と店内に宣伝していた。○○というのは僕らが行った先の地名で、どうやら店主が何も言わないところを見るとここら一帯では慣習化されているのだろう。まるで煙草のサンプルを勧めてくる派遣のようだな、と僕は思った。

 

あちこちのテーブルから声が上がる。隣の女性客は「ノーマル二つください」また別卓の男性客は「肉多め三つ」と口々に注文していた。楽しそうだったので「こっちも普通の三つください」と僕も言った。

割烹着のおばさんは僕らのテーブルへ来ると、小さな盆の上にお玉ですくったカレーを三つ置きはじめた。見た目は”お蕎麦屋さんのカレーうどん”の具のようで、一つの量は某牛丼チェーンの牛皿くらい、これにトロミをつけてカレー味にしたてました、というようなものだった。精算はその場で手渡しだったのだけど、「三つで690円、あとお釣りはなしでお願いね~」と言われたもんだから、僕はサイフの中を探りながら「なんかちょっと高い気もするな」と考えていた。

 

あれ以来その街にはまだ行けていないが、あの流しのカレーはまだいろんな店を行き来しているのだろうか。昭和感いっぱいの風景を懐かしく思えた。