HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

春眠暁を覚えず夢なら覚めないで

"ブリしゃぶポン酢"が運ばれてきた。刺身で食える鮮度のブリをさっと湯がき、ポン酢とだし汁で合えて、浅葱のみじん切りと紅葉おろしを添えたものだ。美味い。


唐突に話しが進んだが、マンガかドラマのような展開は絶賛継続中だ。日が落ちるか落ちないかという頃合いで、彼女から電話がかかってきた。お礼にご馳走させてください、とのことだった。土地勘のない彼女に代わり僕が地産美味にありつけそうな居酒屋を案内した。もちろん価格もリーズナブルなところを加味して。


というわけで僕らは乾杯し、運ばれてくる料理をつつきながら、色々な話をした。
互いの地元の良いところ悪いところ、学生時代の部活動、進路を決めるのにさほど悩まなかった事、兄妹喧嘩、これまでにいった旅行先での出来事、家族構成や恋愛遍歴、最近ニュースで話題になっている事件、話しはどんどん弾み、同じように酒の消費速度も加速していった。彼女はガスライターでデュオに火をつけ、僕は100円ライターでセブンスターに火をつけた。彼女はビールの後にレッドアイや梅酒を飲み、僕はハイボールの後に麦焼酎の水割りやロックを飲んだ。地元で採れる野菜を鴨の出汁で炊いた鍋にシメの蕎麦を追加オーダーするついでに、僕らは地酒リストから各々ひとつずつ選んで注文した。


視界がだいぶグラついてきたのをきっかけに、勘定をして店を出た。何度かの"僕がいや私が"のやり取りの末、「誘ったのは私だしご馳走するって言ったじゃない」ということで会計は彼女が支払った。せめてもと僕は青葉ホテルまで送ることを申し出た。横を歩く彼女の髪を夜風が揺らし、シャンプーのいい香りがした。
近くのコンビニで「何かいるものある?買うよ?」と僕は聞いた。僕は家で酔い覚ましのために飲む用のミネラルウォーターをカゴにいれた。彼女はクルッと店内を一周し、緑茶のペットボトルと小さな箱を手にカゴを持つ僕のところへ来た。「使うかな、と思って」と彼女がカゴに入れた小さな箱はコンドームだった。酔ったアタマの中で"酒を奢ってもらった上に!?まさか美人局?"という疑念が生まれたが、理性とともに瞬時に消え去った。


ホテルのフロントは二階で、エレベーターは一階から各階へ直接行ける造りだったため、なんなく僕たちは彼女の部屋へ行くことができた。軽くシャワーを借り、シングルベッドの中へ身体を滑りこませる。シーツとシーツの間はスベスベしていた。お互いの身体から発生している熱気からか、布団のなかは暑いくらいだった。僕は知らずの内に赤面しているのか、顔まで熱い。何か変だ。熱さの種類が少しずつ変化している。湿度を伴う暑さではない、ヒリヒリと焼けつくような熱さだ。僕は自分の身体が思うように動かなくなっていくような違和感を感じ、首筋や額、腋や背中から汗が噴き出ていった。


眼を開けると、僕は公園のベンチにいた。
木蔭だったはずのそのベンチを、時間の経過で角度を変えた太陽が容赦なく照りつけている。ビールの空き缶が横にあった。
あの時、頬をつねっていれば、もっと早くこっちの世界へ戻れていたかもしれない。