HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

僕は地球儀をクルクルと回している

一年ちょっと先輩に教えられながら過ごし、いよいよ新規オープンした店舗の店長になった。


市街地でもなく田舎でもなく、程よく忙しすぎないだろう地元密着型のコンビニエンスストア。野菜なんかも売ったりする。もちろん、スーパーマーケットよりは割高だけど、それなりに需要はある。なんていったって、二十四時間営業だし。


ほぼ毎日のように店にいる。もちろんレジにも立つし、品出しもするし、新規アルバイトの面接もやる。近くにある学校や施設の行事予定に合わせて、ニーズのありそうな商品もその都度考える。それに加え、新商品の展開とか本社の意向を前面に押し出した売り方とかタイアップ商品のポップとか、かなりやらなきゃいけない仕事は多い。


どこのそんな店でもそうだけど、いろんなタイプのお客さんがいる。
駄菓子を買う子供達、道路工事の昼休憩にトラックで乗りつける作業服の方々、ほぼ毎朝のようにパンと豆乳と栄養ドリンクをセットにしてるサラリーマン、夜中にスッピン&ジャージ姿で生理用品を買う女性、立ち読みだけして帰る若者、酒類コーナーで数分迷っているオッサン(たぶんビールにするか発泡酒にするか)、アニメキャラのクジをたくさん引くヤツ、時間がなかったのか四〜五種類の弁当を日が沈むころに買っていく主婦、おでん一つにスープをたっぷりよそう客、スーパーに行くのをこっちが薦めたくなるほどカゴいっぱいに買い込むお婆さん、「〜〜のチケットはどこに置いてるんだ?」とレジに聞きに来る初老の男性。


クレームをつけてきたり、井戸端会議のように雑談をしたり、レジ以外でもお客さんと対話する機会もけっこうある。


年齢は僕とさほど変わらない、いつもは立ち読みして帰りにタバコを買って帰ることが多い男性ともよく店の外の掃除中に立ち話をしたりする。


その日は珍しく、野菜コーナーで玉ネギをカゴに入れ、タバコは買わなかった。レジ打ちをしている時に「ちょっと頼まれごとがあるんだけど」と彼は声をかけてきた。





小一時間ほどしてから、彼が言っていた容姿の女性が店にやってきた。あまりこの店には来ない客だ。くるりと店の中を一周してからレジに来て、「セブンスターひとつください」と彼女は言う。


僕はさっき彼に頼まれたとおり執拗に年齢確認をする。彼女は渋々免許証を差し出してくる。なんか後ろめたい感じがしてしまい、「未成年に見えちゃったもんで」なんてあからさまなお世辞っぽい言葉を口にしてしまう。彼女は一瞬目を大きくして、そそくさと店を出る。取ってつけたようなセリフだと嫌味に思われたかもしれない。


僕はホウキとチリトリを持って外の掃除をするフリをする。数十メートル先に、ピョコンピョコンと軽くとび跳ねながら去っていく彼女の後姿が見えて、ホッとした。


家では彼がカレーを作っているんだろう。そして彼女はもしかしたら、「さっきコンビニで未成年と間違われちゃった」なんて満面の笑みで報告するのかもしれない。


一つ大きく伸びをして、僕は店に戻る。