HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

私を乗せてクルクルと地球は回ってる


家の近所にコンビニができた。


住んでいるところはそれほどイナカじゃないからコンビニがないわけじゃないんだけど、今度できたのは駅から家までの直線上。日が落ちても煌々と明るくて夜道の危険も少なくなったので安心だし、何よりやっぱり便利。


ついつい立ち寄ってムダ遣いしそうになるのを、毎日のようにガマンしている。


カロリーにも気をつけたいし、節約のためにも自炊、自炊。


だんだんと温かくなってきたからいいけど、ちょっと前までの帰り道に漂ってくるおでんの香りは危険。何度、天使と悪魔が戦ったことか。


同居している彼は、よくその戦いに天使(?)が負けるそうで、おでんを買って帰ってくる。それだけにとどまらず、ちょっとドラッグストアまで足をのばせば安く買える日用品だとか、ビールが足りなくなったとか、「ちょっとジャンプ読んでくる」とか、店員に恋でもしてるんじゃないかってくらい足繁く通っている。まあ、自分のこづかいの中から使ってるから特には何も言わないけど。私は将来のために節約し始めてるけど。


なんせ、"アラサー"だとかいう意味の分からないカテゴライズにくくられて、少しずつだけどプレッシャーがかかってきてる。「まだ二十代だし」というセリフがただの強がりに聞こえちゃうくらいに。





吐く息が白くなくなって、桜が散って、上着の素材に迷う季節がやってきて、たぶんもうすぐ憂鬱な雨続きの日が近づいている。





ある日、仕事が終わって電車に乗っていたときにケータイに着信。振動でメールだと分かってるので、降りるまでそのままにしておく。


改札を抜けてケータイを見ると、家にいるはずの彼からメールが来ていた。「コンビニでタバコ買ってきて」だって。


そりゃ家より駅からの方がコンビニに近いけど、あれだけ通い詰めてるとこに自分で行かないなんて。


些細なことでモメたくなかったので、しかたなくコンビニに寄る。まっすぐにレジへ行ってタバコを買うのもイヤなので、とりあえす雑誌コーナーから店内をまわり始める。大型冷蔵庫に並ぶジュースの誘惑を振り切ったと思ったら、今度はアイス、プリン、菓子パンの波状攻撃。なんなんだろう、この配列は。


なんとか空いているレジへたどりつき、タバコの銘柄を店員に伝える。


レジの画面の"はい"にタッチして小銭を準備していると、「すみません、何か身分証はお持ちですか?」と店員が聞いてきた。「え?」という顔で店員のほうを見ると、もう一度「身分証はお持ちですか?」とまた聞いてくる。なんだ?画面のタッチは無意味?それとも店長が結構キビしい性格でスタッフに教育してんの?色々と考えを巡らしながらも、渋々免許証を取り出す。極力他人には見せたくない、人相悪く写ってしまう身分証。


店員は生年月日のあたりをチラッと見て、私の顔をチラッと見て、「ありがとうございます」と免許証を返してきた。「レジ袋にお入れしますか?」という問いに「結構です」と答えながら小銭をトレイに置く。レシートとタバコを渡しながら店員が言う。「すみません、てっきり未成年かと思っちゃいまして」


なるべく表情を変えずに、スタスタと店をあとにする。心なしか、早足になってるのが分かる。そのまま、家までの道をスキップし始める。


私もまだまだ捨てたモンじゃない。


彼の待つ家が近づいてくる。おでんじゃなくて、カレーの良い匂いが漂ってくる。ああ、煮込んでる鍋から離れられなくてメールしてきたのか。


一日は夜になってまた新しい朝がきて、時間はどんどん進んじゃうけど、私もまだまだ捨てたモンじゃない。