HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

ランチ・イン・ドリーム

久しぶりに、ランチデートのお誘いがあった。

お互い好きだった喫茶店がリニューアルしたとのことで、その店を提案したが、「この時間は(特定の)めんどくさい客がいる可能性が高い」とやんわり断られてしまった。

しかたなく北の方角へ歩いて行く。しかしもう平日の午後二時、夜は繁華街として賑わう周辺は、軒並みランチタイムを過ぎている。

雑居ビルの一階、休憩所のようなスペースがあったのでいったんそこへ入る。僕は上着を脱いで鞄を置き、外を散策する。なぜかタンクトップ一枚姿だったが、ふしぎと寒くはなかった。

そういえば、と以前一度行ったことのあるイタリアンのお店を思い出し、通りを二つ跨いでそちらへ向かう。確かランチタイムとディナータイムの中休憩は無かったはずだ。そこはビルの地下の飲食街にあるのだが、一階の表通り沿いにメニューの書いてある看板が出ている。が、記憶と店名が違う。こんな店だったっけ?と頭に靄がかかる。そしてさっきの休憩所に彼女を置いてきぼりにしてしまっていたことに気が付く。

上着と鞄を抱えて彼女が追い付いてきた。休憩所から距離があるのによく僕の居場所が分かったなと感心する。メニューを見ていると、友人夫婦が現れ、俺たちも食事をしに来たんだ、と言った。四人でその店に入ることにする。

四人掛けのテーブル、僕の右に彼女、それに倣うように対面に友人夫婦が座る。数枚の紙に書かれたメニューが見づらい。見づらいというより、何が書いてあるか判断できない。すると、外国人スタッフがやってきて、「こちらの4,100円のコースがおすすめデス。バンコク料理は初めての方が多いので、みなさんコチラをお選びになりマス。みなさんでシェアすれば結局おトクになりますし」と言ってきた。この時点で僕たちはこの店がバンコク料理屋なことを初めて知り、同時にバンコク料理ってなんだ?とクエスチョンマークが浮かぶ。僕は(ランチに4,100円!)と頭の中で叫びながら、「どうする?」と皆にふった。僕の予想に反し、皆「いいんじゃない?」と言う。オーダーが済むと僕と彼女はテーブルの下でこっそりと手を繋いだ。




ふと僕は席を立ちあがり、店を出ていた。歩きながら、また置いてきぼりにした彼女の気持ちや、四人で合計16,000円ちょっとの支払いを友人がするのかと色々考えていたが、なんかどうでもよくなった。

少し離れた小さなビルの二階に、創作和食料理屋があって、僕はその店に入った。店内は白い壁、テーブルには白いクロス、椅子は杉のような木材のベンチタイプだった。

店内とは対照的に黒を基調とした洋食屋風の服を着た男性店員がメニュー表を持ってきた。なぜかこの店も見づらい。店員の説明によると、一皿100円相当の小出しの料理が三十品出てくるコースだという。目を凝らしてメニューをよく見てみると、確かにコース名の下に小さな字で三十種ほどの料理名が並んでいた。しかし、いくら小さな皿で出てくるとはいえ三十品も食べられるか分からないし、その中に苦手なものや食べたくない気分のものもあるだろう。どうにか十品くらいにしてもらえないものかと思っていたら、男性店員の反対側から、女性店員が名前を呼んできた。「○○君だよね?この前××君も来てくれてね」と初対面の人間に対するものではない話し方をしてくる。××君、とは僕の一つ年上の先輩で、よくよく思い出すと彼がこの店で撮った写真をSNSにアップしていたのを見た記憶がある。そしてこの話し方だとこの女性店員は××の知り合いで、年はさらに一つか二つ上といったところだろうか。

先に対応していた男性店員をよそに、彼女はまだしゃべっている。「この店ではね、ナプキンにお客さんの名前をプリントできるの。それを膝にかけても良し、口を拭っても良し、それがこの店のスタンダードなの。料金は別で600円。でもみんなそうしてるわ。××君もそうだったわよ」と和食屋なのか洋食屋なのか不明な発言をしている。

僕は一皿100円かける三十品の値段と、さらに断りづらい勧めかたをしてくる別料金のナプキンにげんなりし、(どこもかしこも金、金、だな)とぼやきながら何もない道を歩いていた。時間は午後三時を回ったころだろう。



食欲は満たされないまま、夢から覚める。