HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

ようこそ僕の夢の中へ-2(後編)


僕は生まれて数ヶ月の乳児と風呂に入っている。


風呂はどこかの旅館の貸切家族風呂のようで、全体的に濃い茶褐色の木材で作られている。湯船は大人数人が入れるほどの広さで、なみなみと張った湯からはもうもうと湯気が立っている。


僕は昔を思い出しながら、乳児の後頭部を左手で抱き、両耳が閉じるように親指と薬指で押えている。


そしてこれは夢が始まった時から直感でわかっていることなのだが、この子は僕の子どもではない。物語の変遷や経緯は全くわからないが、どうやら以前に交際していた女性の子どものようだ。


たちこめる湯気のせいか現実世界で見たことがないからなのか、手に抱いている距離にもかかわらず乳児の顔はわからない。


風呂場の右の引き戸が開けられ、湯気の中から女性がやってきた。付き合っていた当時の面影が残っているようだが、湯気のせいか表情までは見えない。


僕は抱いていた乳児を渡したが、そこで風呂から上げる作業も頼まれた。僕は「それは父親にやってもらえばいいじゃないか」と反論する。そして同じ湯船の右横に目をやる。


子どもの父親、つまり彼女の結婚相手と同じ風呂に入っていたようだ。先述したとおりストーリーの変遷や経緯は全くの謎だ。彼は「自信がない」などと渋りながらも立ち上がった。「そんなこと言ってる場合じゃないだろ、しっかりやれよ」と僕は先輩面をして言った。ここで露わにされるのが彼の性癖なのだが、どうやら彼自身も風呂から上がるときは頭や身体を誰かに拭いてもらわないとダメらしい。「ガキかよ」と言いつつも僕は彼の顔と額まわりの髪を叩くようにタオルで拭った。「もういいだろ、早くいけよ」と僕はぞんざいに言い放った。湯気と引き戸越しに見える脱衣廊下では子どもがもう身体をバスタオルで拭かれ、肌着を着せられている途中だった。


そそくさと出ていった彼を目で追いながら、「アイツも苦労する結婚生活にはまったな」と呟いた。


僕は湯船のへりに腕をおき、その上に顔を乗せて湯面にうつぶせるような格好でゆらゆらと浮きながら温まっていた。戸の向こうではさっきまで乳児だったはずの子どもが成長し、つかまり立ちから二三歩よちよちと歩けるようにまでなっていた。恐らく生後九ヶ月くらいだろう。


僕も風呂から上がり、旅館の隣を流れる川を見下ろすような形で建物の周りをぐるっと廻っている廊下をビールグラスを片手に歩いていた。


部屋へ戻ると、僕の父親と母親と数人が部屋飲みのような小宴会を催していた。テーブルの上には缶ビールが数本と乾き物のつまみが散乱していた。僕はさっきの子どもがもうすぐ歩きそうだったことを伝えると、母は「まだ九ヶ月なのに!」と羨むような驚きを発した。酔って赤ら顔になった父は僕に新発売のビールを勧めてきた。新種のビールは二種類あり、僕の好きな国産ビール会社のロゴと銘柄デザインが小さく確認できた。


一つは黒を基調としたデザインの缶で、「9696」という名称らしかった。ラベルを見ると「酸度9%、Alc.6%」とあった。もう一つは鮮やかすぎない赤を基調とした同じデザインで、「8585」と書いてあった。恐らく「酸度8%、Alc.5%」なのだろう。ビールに酸度とはなんだ?と思いながらも僕は「85のほうで」と言った。


父親は僕のグラスにまだ飲みかけが少し残っているにもかかわらず、缶を開け「8585」を注いできた。新種のビールを勧めたくせに何をしてくれてるんだ、と口には出さずにもう一度缶を眺める。ラベルの下部に「発泡酒」と書いてあるのを発見して「ビールじゃないのかよ!」と僕は父親とビール会社の両方に対し落胆した。そして目が覚める。






二つの夢になんの関連があるのかは分からない。そして"前編"、"後編"と題したもののどちらが先に見た夢だったかは覚えていない。ただ、自分の夢を文章に起こすことは難しく面白くもあるので、覚えていたらまたやってみようと思う。