HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

結婚が人生の墓場と言うのなら


友人だったやつの話をしよう。


出来れば「友人だった」とは言いたくないのだけど。


彼と出会ったのは、数年前にあった、高校時代のクラスメイトの結婚式だった。その時はまだ直接の知り合いではなく、案内されたテーブルも異なっていたので、正確には結婚式ではなくその後の飲み会だ。


二次会、三次会と宴は続き、出席者は少しずつ減り、それに反比例して酔いは増していた。


新郎新婦とその友人たちが昔話に花を咲かせている。既婚者未婚者が入り混じるその場で「最後の恋〜つまり自分史上最大の恋」という話題が持ち上がった。恐らく当時出版されたアンソロジーが要因だろうと思う。その質問の矛先が新郎に向かってしまった。


本来であれば、恋愛結婚である者の最後の恋は伴侶とであって、「今もカミさんに恋してます」と言うのが模範解答であろうと僕は思うのだが、ビールやシャンパンを披露宴から注がれまくり律儀にも全て飲み干していた新郎からはそのような回答は得られなかった。


代弁したのは"彼"である。さも、恋愛映画を観た直後のような恍惚とした目で彼は話し出す。新郎の元カノの話を。


どのようにして出逢い、どこそこで初デートをし、ロマンチックな雰囲気になり、新郎がどれだけ元カノのことを想い、悩み、愛していたのに別れざるを得ない結果になってしまったかを、本人に代わり熱弁した。


新婦の顔から酔いが醒めていくのが見てとれた。恐らく、こんな無分別な友人がいたなんて!と今日誓いを済ませたばかりの新郎の友人関係を疑い、新郎に対する感情の何かも冷めていただろう。そのとばっちりが回ってこないよう、無理矢理大声で新郎に別の話題をふり、なんとか修羅場一歩手前のその空気を脱出したのは我ながらあっぱれだったと思う。


その後、彼と二人だけでBARへ行き、ほぼ初対面ながら先刻の振舞いを説教し、酔いのまわった男同士は口論し、殴り合い手前でマスターの仲裁により握り締めていた拳を開いてシェイクハンドした。


この件以来、彼とは「友人」のような関係が続いていた。性格に難あり、なので本来は友人とは呼びたくないとは当時も頭によぎっていた。





さて、その友人が結婚したのだ。が、悲劇はまたもや三次会で起きる。


一時期芸人だったがコンビを解散し、手相占いでテレビによく出ていた。その名残か、関連した本がよく売れていた。


二次会から三次会への会場へと移動する間に、途中で寄ったコンビニで誰かがそんな本を買ってきた。


生命線の長さ、太陽線の有無、感情線、新婦の未婚友人達は恋愛について、その本をもとに場は盛り上がっていた。そんな中、彼は自分の小指のつけ根をまじまじと眺めていた。そして「オレ、結婚線が三本ある!」と、独立宣言のごとく声高らかに発表したのだ。あまつさえ、「次の相手は誰だろう!?」などと口にする。きっと彼の頭の中にはケシの花畑でも広がってるんじゃないかと僕は思う。周りのみんなが思う。新婦も思ったらしい。


結局、彼はその発言により新居の敷居をまたぐことを拒否され、"成田離婚"ならぬ"三次会離婚"へと事態は進んでしまった。


電話口で「結婚は人生の墓場だ!だがオレは甦ったぞ!」と一方的にまくしたてられ、僕はホトホト呆れ果てて電話を切った。


以来、彼がどのような人生を送っているかは知らない。