HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

ようこそ僕の夢の中へ-2(前編)


とあるビルの中に僕はいた。何かの実験施設というわけではないが、サイボーグやアンドロイドの研究者がそれぞれの性能を争わせる場のようだった。正体は不明なのでここではロボットと呼ぶ。ただし全てが金属や無機質でできているわけではなく、関節や筋肉に相当する部分には有機質で合成された人工物質が使われていた。


白い壁や扉で統一された廊下の真ん中にエレベーターのような自動ドアがあった。それは透明な硬質ガラスか何かでできているらしく、その向こうにロボットは機具によって固定されていた。


透明ドアの外に担当の研究者の女性がいた。能力披露はもう順番的に最後のようで、彼女は少しハイになっているようだった。研究者らしからぬ気概だな、と僕は遠目に思った。ドアの横にはいくつかの大きなボタンがあり、それが起動装置と養分なのか燃料的なものなのかを注入する大きな注射器と連動している。


おもむろに彼女は「1000%!!」とまたもや研究者らしからぬセリフを言い放ち、起動ボタンを力強く押した。注射器がロボットに素人の見た目にも過剰と分かる量の注入を始めた。


女性研究員の反対側にいた監視官のような高齢の男性も危険を察知しているようだった。人間大の大きさだったロボットは
みるみる膨れ上がり、固定されていた機具を破壊し、オイルのような液体がそこかしこから噴出している。


僕はそれを見て、建物の外へ避難するべく階段を駆け降り始めた。このままでは少なくともビルの倒壊、そして制御不能に陥ったロボットの暴走が目に見えている。


一つフロアを降りた階段の踊り場、つまりロボットが格納されていたすぐ真下の壁に、さっきのオイルが染み垂れていてまるで血のようだった。僕はさらに危機感を覚え、さらに階段を降りていくが、スタートダッシュの時点から靴がうまく履けていないままだった。冬用のスニーカーのかかと部分が硬くなったままで、かかとが靴の中に入っていない。どうにもアンバランスなまま、さらに階段を降りる。数段をジャンプして着地する。その勢いでうまくかかとがはまるかと思ったがうまくいかない。ただし、立ち止まって吐きなおしている猶予はない。女性研究員は自業自得として、監視官はうまく逃げ出しているだろうか。それとも職務を全うするため上階に留まったままだろうか。


四五フロアほど階段を降りえたところで、僕はロボットのいた壁と反対側のエントランスへ出た。ビルを半周してみると、半分ほど崩れたビルと同じ高さにまで成長した暴走ロボットがいたが、どうやら別のロボットに押さえつけられ動けない状態のようだった。そのヒーロー戦隊のようなロボットは、肩口に乗るこれまたヒーロー戦隊のようなイケメン俳優と思しき若者に操作されていた。これではまるで安いSF映画のようだ、と僕は思った。


ビルと隣接するマンションのベランダや商業ビルの窓からは人々が危険もかえりみず二体のロボットの動きを見守っていた。やがて、暴走ロボットの片腕はへし折られ、洗浄液のような液体が噴射し、向かいのマンションのベランダと壁を勢いよく濡らした。英雄ロボットは、暴走ロボットのクレーンの骨組みのような金属製だけになった片腕を放り投げ、それが地面にズズンという音を立てて転がった。


人々は身を乗り出し、両手を挙げて歓喜した。そして歓声のなかから「酒を!酒を!」という女性アナウンサーのような声が聞こえ、全ての人々は酒盛りをしたがった。どこからか現れた各飲料会社が窓という窓、ベランダというベランダに商品を振る舞い、どんちゃん騒ぎのようになった。いつのまにか建ち並ぶビルの壁面やマンションの屋上にはビールメーカーや
清涼飲料水メーカーのロゴの広告看板がひしめき合っている。これでは安い映画の露骨すぎるスポンサー披露だ。


大団円を迎えた街並みが遠ざかるように景色は小さくなり、そのフェードアウトの途中で夢から覚める。