HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

想像力の中の暴走族

断続的に大きな重低音が耳に響く。大抵の人々は顔をしかめる。

そもそも大きな重低音というのは人間を含めた生物にとっては「危険信号」の種類に属する。地鳴りに身を構えるように。

ドォン!やゴゴゴゴゴ…といった擬音で表される音に人はまず警戒心と恐怖感を持ち、それが人工音だとわかった瞬間にちょっとした憤怒と嫌悪に切り替わる。




国道4号バイパスに出る交差点で僕は信号待ちをしていた。断続的に大きな重低音が耳に響く。


目の前を「暴走族」と呼ばれるバイクが数台通っていく。前にせり出した風防、それと対照的に後方斜め上に伸びるシート、静音器を外された排気管。そして取り付けられたスピーカーが高らかに鳴らすゴッドファーザー愛のテーマ。


このスタイルは二十数年前から何も進化していない。もし変わったことがあるとすれば、恐らく彼らの通信手段はスマホになっているだろう。もしかすると走行ルートをLINEのグループで相談しているのかもしれない。


そしてもう一つ大きく変わったこととすれば、悲痛なガソリン代の値上げ。これは大打撃だろう。現に、僕の目の前を通った単車はわずかに四台。そのうち三台が「二ケツ」だった。七人が四台に乗り分けている。




僕は想像する。ゴッドファーザー愛のテーマを流すだけのためにスピーカーを取り付けている彼らの姿を。


スピーカーだけではなく自己主張する塗装、改造、組立の全て、オイルまみれになりながら汗を流す姿を。


そして恐らく、完成した自分の愛馬を目の前にして充足に満ちた顔を一瞬でもしたのだろう。初めて自分でジグソーパズルを完成させた時の子どものように。




金曜や土曜の夜に見かけたのならば僕はそこまで思わなかっただろう。何せ彼らが僕の目の前を横切ったのはよく晴れた三月の日曜の午前中だったのだから。


信号が青に変わり、僕は温かい気持ちになって原動機付自転車のアクセルを捻る。