HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

デイ・ドリーム・ビリーバー

僕が彼女を想い出すとき、彼女は白い大きめのセーターを着て、発進していく車の助手席で涙を浮かべながらウインドウを隔てて僕を見ている。


冬の名残か僕らの心残りか、前日から湿った雪が降り、どんよりとした空と気持ちがシンクロしていた三月のとある日だ。






僕たちはよく手紙のやり取りをした。


週に二回ほどだっただろうか、内容はとりとめのない日常の出来事だったり、前回もらった手紙の返事だったり、若く幼く拙い愛の言葉だったりだった。


僕はその手紙一通一通を大事に机の引き出しの奥にしまい、ときどき読み返したりした。






彼女からの別れの言葉もやはり手紙だった。


いつも届く手紙よりずっと少ない、便箋一枚半だけのものだった。


僕は封筒を開け、文頭の僕の呼称に不穏な空気を感じたがひとまず最後まで読み流した。その後で、内容が変わってくれることを願いながら封筒に戻し、もう一度取り出した。


もちろん、内容も結論も彼女の見慣れたクセ字も何も変わっていなかった。




それから何日かが過ぎた。文字通り空白の日々が流れ、実際に何日間経ったのかは覚えていない。



ある日、僕は事ある毎に相談をしていた友人宅へ行った。家の裏手の畑に続く庭でブリキ缶を見つけた。


そして、これまで彼女からもらった手紙を一枚一枚封筒から取り出し、ブリキ缶に入れ、上からジッポーオイルを振りかけた。


ポケットから覚えたての煙草を取り出し、口にくわえて火をつけた。


二三度ラッキーストライクの煙を肺に入れ、吐きだし、吸殻をブリキ缶に投げ捨てた。オイルに火がつき、すぐに燃え広がるシーンを想像していたが、そうはならなかった。


僕は仕方なく身をかがめて便箋を一枚取りあげ、文章が目に入らないように向こう側にむけて紙の端にライターで火をつけた。そしてそれをもう一度ブリキ缶に放った。


小さな火はメラメラと他の手紙に延焼していった。火の勢いで煙とともに燃えかすが曇り空にのぼっていくのを見上げ、僕はもう一本煙草に火をつけた。


燃え残りがあってはいけなかった。彼女の書いた字が一文字でも残って、僕の目に入ることがあってはダメだと思った。


数分経って、火の勢いが弱まり立ちのぼっていた煙も消えた。


手紙は完全に灰になった。


彼女は僕の「目と手が好き」と愛嬌のあるクセ字でいつだったかの手紙に書いていた。それだけが僕の頭の中に燃え残っていた。


空は曇りで、それが煙のせいなのか気持ちのせいなのか分からなかった。たぶんもうすぐ雨が降る予感がした。