HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

カーペンターズを爆音で

ある土曜日、僕は友人の主催するイベントの手伝いに港が近い町に来ていた。

イベント会場は地元の画廊兼喫茶店を貸し切り、県外からファンクミュージックを主に演奏するバンドを招聘していた。画廊というだけあって、屋内の雰囲気は厳か且つある一定の纏まりを漂わせていて、ここに生演奏の音楽が加わればかなりいい雰囲気を出しそうだった。

バンドの一行は店の前に機材車を停め、荷台からケースに入った色々な楽器を降ろしていた。一連の作業を僕の他、友人の後輩にあたる女性など数人が手伝っていた。余談だが、彼女はよく気が付く性格のうえ顔の整った子で、現場に一人いるだけで俄然チームワークが良くなる。

が、なぜか主催者である友人が場所を変えたいと言い出した。好天に恵まれたので野外でのフェス的ななにかにシンパシーを感じたのだろう、港近くの建物跡でやりたいと言うのだ。建物跡は基礎のコンクリートだけが残っていて、確かにここに板を張れば簡易ステージのようなものが作れるかもしれない。しかし運営補佐の立場である僕から言えば、公演当日の急な変更は何もかも破綻しかねない。僕は説得を試みた。

元々アーティスト気質がある友人は、自らの発想をすべてだと思い込む節がある。が、そのような性格の人間は他人の言葉に耳を傾けないことが多いことも否めない。

彼は先月都内であったゲリラライブを思い浮かべているのだろう、しかしこちらはすでにチケットを販売しているのだ。

結局すべての折り合いがつかず、時間だけが淡々と過ぎていき、何もかもが白紙どころか透き通るように終わってしまった。バンドは機材を積みなおして帰ってしまったし、来場した客には事情を説明して代金の払い戻しをした。僕らも、設営や機材を片づけ、倉庫兼事務所へ足取り重く戻った。

 

僕は現場を最後に出て、手で持てるだけの機材を運んだ。倉庫に入れ終わり扉を出ようとすると、激しく互いの身体を求めあう男女が垣間見えた。主催の友人と、後輩の女の子だった。心臓がキュッと音を立てて萎むような心苦しさの後に、自然な諦観が流れ込んできた。きっとこれまでもプライドを傷つけた友人を慰め、癒してきたのだろう。

 

息を大きく吐き、後頭部に残る意識を引きずるように歩いて僕は車へ向かった。エンジンをかけ車を発進させ、赤信号で停まった。カーペンターズのCDをセットし、ボリュームを大きく上げた。「GOODBYE TO LOVE」のイントロが流れる。僕はこの曲の間奏とアウトロのギターが大好きだった。

しかし、アウトロが始まって数秒して、音飛びが激しくなった。傷がついているのは盤面もかよ、好きな曲くらい今は聞かせてくれよ、と口に出しそうになりながら、僕は街灯に沿って延びる道へ車を走らせていく。