HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

a heavenly day

年が明けてからは例年ほど雪の降らない今年の冬。だがそれでも気温は低く、僕は手袋をはめた手をさらにコートのポケットにつっこんで歩いていた。


前方から知った顔がやってくる。知った顔、というほど付き合いが浅いわけではない。それどころか深く、長い。ただし彼の人格にやや問題があり、できれば”知った顔”程度で済ませたいのが本音の、腐れ縁だ。奴がスピード離婚したとき「俺は人生の墓場から生き返った!」と言い放ったエピソードを以前紹介したのを覚えている方もいるかもしれない。


やけに陽気に見えた。しかし次の瞬間に溜め息が白く吐かれ、灰色の曇り空に消えた。仕方なく「どうかしたのかよ」と話を切り出す。


『いや、実は天国帰りでさ』

「旅行にでも行ってたのか?」

『いやいや、マジもんの天国』

「なんだそれ」

『よく覚えて無いんだけどよ、気づいたらでっかいベッドに白いガウンを着て横になってた。起き上がってぐるっと見渡したら、これまたでっかい窓と、マッサージチェアと、壁掛けのテレビがあった。あ、でも時計はなかったな。そんでもってサイドボードを開けたらウイスキーやらワインがずらり。冷蔵庫にはキンキンに冷えたビールがぎっしり。TAKE FREEって書いてあったから飲んでたら、部屋の電話が鳴って”ルームサービスお持ち致します”ってフロントから。そしたら来るわ来るわのフルコースでさ、しかも運んできたのがモデルかってくらいの美女、ダイナマイトバディ。”冷めないうちにどうぞお召し上がりください”って言われたから肉をガツガツ食ってビールで流し込んで。夢中で飲み食いしてたら、ふとシャワーの音が聞こえたわけ。なんだ?と思って待ってたらさっきのワガママバディがバスローブを着て登場したのよ』

「んで?」

『”据え膳食わぬは〜”って言うだろ。もちろんベッドへゴーだよ。飲んで食ってヤッて。これを3セット。さすがに疲れてウトウトしてたら、部屋にはオレひとりだけになってた。まぁしょうがねーかって考えてたらまた眠っちまってて、起きたら今度は俺の部屋だったんだ』

「ただ夢見ただけじゃん」

『ところがだよ、腹ン中にはそん時の食いもんのもたれが残ってたし、出てきたゲップを検証してもそうだった。身体中には女の感触と、体温と、匂いが残ってた』

「コメントの返しようがないな」

『とにかく、天国気分から一転、日常に戻されたオレに同情してくれよ』

「浦島太郎みたいなもんか。お気の毒に」


この話のあと、互いに吸っていたタバコを灰皿に放り、温くなった缶コーヒーを一気に飲み干し、僕たちは「じゃあまたな」と言って別れた。少しして携帯がなった。メールの着信だった。送信元は奴で、本文には「この時期の冬山に登って山小屋でヤッてた奴がいない限り、あの時間に市内で一番高いところでヤッてたのはオレってことになるな」とあった。

まだまだ天国気分は抜けていないようだが、まぁしょうがない。普段からフワフワ空を飛んでるような感じの奴なんだ。