20XX年、人権尊重の強い意見が流行し、「死刑制度」の廃止が決まった。
これにより、国内での一番重い刑は「終身刑」及び新設された「就寝刑」となった。
「被告人、○○を"就寝刑"に処す」
裁判所で下された判決により、僕は刑務所に搬送された。
『就寝刑ってなんです?』
「そのままだ。」
『寝てるだけ、ですか?』
「そうだ。」
『はぁ、ひとまず寝てみます。が、目が覚めてしまったらどうしたらいいんでしょう?』
「余計なことはいい。貴様には食事、排泄の時以外は身体を起こすことも許されない。」
『死ぬまでずっと、ですか』
「模範囚であれば、仮保釈が認められる場合もある。
死刑制度がなくなった今、囚人は増えていく一方だ。だから食事などを減らす為、極力エネルギーを消費しないよう"就寝刑"が新設されたのだ。」
『刑が重くなる事もあるんでしょうか?』
「全ては睡眠時の態度による。」
『睡眠時の態度?』
「寝相の良し悪し、睡眠時の騒音がなければ減点はない。寝言、歯軋り、鼾などの騒音が感知されれば減点対象だ。」
『それはどうやって調べられるんですか?』
「騒音は各部屋に取り付けられているマイクにより計測される。一定量を超えるデシベルが計測されれば減点だ。次に寝相についてだが、ベッドにもセンサーが内蔵されている。ベッドにかかった負荷は蓄積され、データとして保管される。
模範囚を目指すならなるべく寝返りを打たないようにするんだな」
『なかなか難しそうですが』
「減点が多ければ、"強制就寝刑"になる。睡眠薬を打たれ、食事も点滴、排泄はチューブを通す。起き上がる事は一切許されない。時々看守が床ズレをしないようにやってはくるがな」
『普通の終身刑より重い気がするんですが』
「さっきも言ったが、囚人は増える一方で、食事や光熱費はかさんでいく。それらは一般国民が払う税金によってまかなわれている。本来なら自分たちの幸福のために使えるはずだった金を、貴様ら囚人のために使わなくっちゃあいけないんだからな。」
「説明は以上だ。さっさと寝ろ。」
寝ろ、と言われればなかなか寝付きにくいのが人の性だ。
しかたなく眼をつぶり、羊の数を数えてみることにした。
余計な情報を遮断するためなのか、部屋は防音のようだ。
自分の呼吸音以外はなにも聞こえず、窓もなく真っ暗だ。
もう僕には二度と"朝"というのはやってこないのだろう。
それでも生きているだけ良しと考えるべきなのだろうか。
毎日が日曜日で好きなだけ寝ていたいと昔、思っていた。
「Good Night」なんとも皮肉な言葉を繰り返しつぶやく。