ザーサイである。
事の発端は、同棲している彼女がパート先のスーパーマーケットから瓶詰の惣菜を持ち帰ってきたことだった。
「(賞味)期限が近いから、安くしてもらったの」とメンマやザーサイの瓶をキッチンに置き始めた。比較的保存のきく瓶詰商品が"賞味期限が近くなる"まで売れ残っているのは、小売店としてどうかと思ったが、口にせず黙っていた。
このザーサイがここ最近の僕を苦しめている。毎回食卓に出てきて飽きる、とかなら回避しようがあるのだけれど。
みなさんはザーサイと聞いて思い浮かぶのは一つしかないと思う。僕だってそうだ。
スライスしたザーサイの塩漬けを、ラー油などの調味料と合わせてさらに保存が効くようにしたもの。そのまま食べてもいいが、チャーハンやマーボー豆腐なんかの中華料理の隠し味に細かく切って混ぜると美味しいらしい。
この"中華料理の隠し味"という部分から、ザーサイそのものは中国産なんだろうと想像がつく。
僕は、ザーサイを見てみたい。市販のものではなく、できれば畑になっているところをじかに見てみたいのだ。
このご時世、インターネットで検索すればたいていのものはわかってしまう。たぶん調理前のザーサイも検索すれば出てくるだろう。しかしなぜか僕の頭はそれを拒否した。
いつか、知らない街を旅しているときに、ザーサイ農家と出会い、「ここがザーサイ畑ですよ」と案内されて初めて実物を見る。僕はこれを夢想する。
自国内産が完全否定されてしまえばそこで終わりなんだけど、ブロッコリーやカリフラワーを少しグロテスクにしたような形を想像している。塩漬けにする前はどんな味がするのだろう、栄養価は高いのかな、ザーサイについての興味は尽きない。