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妄想雑記

ミッシング・リング

悪夢にうなされたわけではなく、ごく自然に朝の光を受けて目が覚めたはずなのに、なにか嫌な予感がした。

アラームを解除しようと枕元のスマートフォンを手に取る。メッセージが一通届いていた。

「あなたの部屋に指輪を忘れたみたいなの」

先日、成行きで部屋に上げ、男女の関係を持った相手からだった。

 

指輪。どんな指輪をしていたのか、そもそも相手のアクセサリーの類など気にも留めていなかった。宝石のついた指輪?シンプルなプラチナの指輪?もしかするとそれって結婚指輪?

 

先週の平日、年始の休暇明け、新年会なのか決起集会なのかよくわからないが職場での軽い飲み会があった。長期休暇ボケが抜けていないようで、僕は二次会を辞し、大通りから一本裏に入った公園のわき道を歩いていた。

公園のはす向かいに、薄暗いカフェバーのような店をみつけ、終電まで時間があったので入ってみた。通りを見渡すようなカウンター席があり、そこの端に席を取り、ビールを注文した。読みかけの小説を取り出し、読み始めるも内容がいまいち頭に入ってこない。アルコールのせいか、店内の暗さのせいか。

ビールからウイスキーに移り、頭の中が生暖かくなってきたところで声をかけられた。たしか僕から見て後ろのテーブル席にいた女性だったと思う。

慣れない照明の暗さとアルコールが手伝って、初対面の割に話は弾んだ。気づけば終電はとっくに出発し、僕らはタクシーをつかまえて帰った。長い付き合いの友人を家に招くような自然さで、彼女を部屋に案内し、寝た。

 

翌朝起きると彼女の姿はなかった。二日酔いの軽い頭痛を覚えながらコップ一杯の水を飲み、昨夜の出来事を整理しようと記憶をたどるがうまくいかない。しかし自分の部屋の空気の違い(匂いなのか湿度なのか)で、独りで迎えた朝ではないのがわかる。

ワンナイト・ラブ、一夜の夢、と自分を無理やり納得させ、普段通り仕事へでかけた。

 

そして二日経った朝が冒頭だ。

ベッドの下をLEDライトで照らすが、無い。

洗面所の壁にくくりつけの小物置き、無い。

浴室のシャワーの排水口とバスタブ、無い。

寝室に戻り枕をひっくり返してみる、無い。

マットレスとベッドの隙間ものぞく、無い。

ソファーとクッションの間、ゴミ箱、無い。

女性はどんな容姿だったか、思い出せない。

なぜ僕の連絡先を知っている?教えてない。

ミッシング・リング、ミッシング・リンク