HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

巡り合い

東京出張で一泊し、帰る。

シングルの部屋が空いておらず、前日にダブルの部屋を予約した。当然料金は割高になる。

何かの巡り合いがあって「シングルじゃ狭い」と言えるような一夜を想像するも、全くそんな訳はなく、気づけばテレビもエアコンもつけっぱなしのまま大の字でムダに広いベッドを堪能していた。

サイドテーブルには帰りがけにコンビニで買ったチョリソーの包装とミネラルウォーター、バーボンの小瓶がある。水と酒はそれぞれ半分ずつくらい残っていた。
ミネラルウォーターを飲み干し、バーボンは鞄にしまう。

ホテルをチェックアウトし、時間は無限にあったので主要駅まで4キロほど歩くことにした。東京はコンクリートジャングルのイメージが大きいが、頭上を首都高が走る国道沿いの脇には意外と緑が多い。

往路で読みきってしまった文庫本の代役を、中古書店で買い求めるべく駅から程近いビルの4階へ足を運ぶ。

スマートフォンを操作し、タイトルと著者名をメモしておいた画面を見つつ、棚を物色する。
一冊だけお目当てのものがあったので、レジで購入する。

時間に余裕をもって取っておいた指定席券を胸に、ホームへ赴く。車内の清掃終了のアナウンスが流れ、僕を含めた乗客はキップに記された数字とアルファベットを確認しながら乗り込んで行く。

上着を膝掛けがわりにし、靴を脱ぎ、鞄から文庫本を取り出す。ついでにバーボンも取り出す。
まだ日は高いが、車内には弁当を食いながらビールを飲んでいる客もいるのだから大差ないだろうと自分に言い聞かせる。やはりどこかで後ろめたいのかもしれない。

しかし、あまり飲みすぎる訳にはいかない。せっかく買った本の内容があやふやになりそうだし、ましてやこの列車は終点が新函館北斗駅である。うっかり酔っぱらい過ぎて寝落ちしたものなら、目が覚めて北の大地で試されるのは自分になる。

と言うわけで一口だけバーボンを口に含み、ゆっくりと飲み込む。コーヒーと水しか入れていない胃に、火照りが表れた。

文庫本を開き、パラパラと指で手繰ると、栞代りなのか紙切れが1枚挟まっていた。

レシート。日付は4年前の年末、金額は文庫本の定価と一致。店の所在地は福岡。

誰かが福岡で買った本が、どういう経緯を辿ったのか東京の中古書店に流れ、仙台に帰る僕がそれを手にしている。

なんとも不思議な巡り合いじゃないか。
僕とその誰かに共通しているのはこの本に興味を持ち購入したこと。
違っているのは彼は定価で新品を買ったが、僕は中古で済ませたこと。

少し読み始めたが、僕はこれを売りに出しはしないだろうということ。