映画が始まり、館内の客たちはストーリーに引き込まれていく。
大きなスクリーン、大きなサウンド、自分だけでは味わえない一体感。
映画なんてわざわざ見に行かなくてもDVD借りればいいじゃん、と思う人もいるだろうが、この一体感は家庭では感じられまい。
今回も伏線の回収が少しずつなされ、エンディングへの収束に期待が高まる。
開演から90分も経ったころだろうか、事件は起きた。
スクリーンの中ではなく、館内の現実に。
明らかにスピーカーから発せられたのではない声が、「今回の犯人は、コイツ!」と響き渡った。
薄暗がりの中静まり返った館内の、出口に近い見辛そうな席から、男が立ち上がり、出て行った。
突然の出来事に反応できる客はおらず、無論僕もその中の一人なのだが、「え?」だとか「なんなの?」といった声がちらほら聞こえる。
だが追いかけてとっちめようとする者はいない。なにせ、顔が分からないし、そのネタバレが事実かどうかを確かめる術はここに留まるしかないから。
スクリーンでは話が進み、僕たちの頭の中にどうしようもない怒りと諦めが溜まる。
なぜ、こんなことをするのか。
快楽犯なのか、ただの嫌がらせか。
そもそも入場チケットを2回買ってまでする意味は?
たまたまこの上映時間で観ていた僕たちの運が悪いのか?
スクリーンの中だけではなく現実に起きるミステリーがあることを思い知らされ、エンドロールが終わった館内に灯りが燈る。