HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

秋の薫りと冬の匂い

知らない道を歩く。


学生のころは家と学校、そして今は家と通勤先の道の往復ばかりだった。同じ景色が後ろへ流れ、信号機の赤が青に替わるタイミングまで覚えてしまうくらいに。


自分で選んで知らない道を歩く。


とある昼下がり、散歩の提案をする。市街地からほんの1,2km離れたところに流れている川を見下ろすように歩く。

知っている道は比較的大きな通りだったが、その通りに出る前に見知らぬ階段を見つけた。

日あたりは良く、汚れたり寂れたりしているわけでもなかったが、普段は通る人はいないのだろう、そんな気がした。

コンクリートでできた階段を降りていく。視線が川沿いと同じくらいの高さになる。ちょうど太陽が西に傾きはじめ、川面に乱反射する。キラキラとした陽ざしが眩しい。

「良いところだなぁ」とっさに口から出た言葉はとても自然だった。

歩く進行方向に向かって左が川、その向こうは高台になっている。右側には野球場、その向こうは一日中ひなたぼっこができそうな南向きのベランダが並ぶマンション。"スズメバチ注意"と無機質に書かれた下げ札が遊歩道の柵にかかっているが、色褪せて読みづらい。

ときおり吹く風も、川の流れも、時間でさえも、ゆったりと柔らかだった。



冬を告げる雨が降った。

それは他のどの季節に降る雨よりも静かで、なんだか無言で従事する執事ロボットのようだった。

もう、あの遊歩道を歩いても初めて訪れた時のような多幸感は感じられないだろう。だが記憶には残る、大事な場所として。