毎夜悪夢続きだった彼は、また夢をみる。
全体的に白を基調とした世界、日常よりちょっとだけ余裕のある自分がそこにいる。
離れ離れになってしまった元恋人が現れる。
彼女はまだ、自分のことを好いていてくれているようだ。
彼女が彼の手をにぎろうと手を伸ばし、指先が触れる。
彼はとっさに手を振りほどいてしまう。もう僕たちは恋人同士ではないという建前が頭をよぎったからだ。
彼女はちょっとだけ淋しさを滲ませたはにかみの笑顔のまま、彼の横を歩く。
ふたり並んで、あてのない散歩のように。
僕もまた、彼女のことを好きなままのようだ。
朝、目が覚めると彼は「これが美化された記憶ってやつか」とひとりごちて、夢の中だけでも手を繋いでおけばよかった、と悔いる。