飲み屋街をふらふらと歩いている。
知らない街での夜の散策。繁華街のように煩い客引きはいない。
店の前に出ている看板、メニューをチラ見しつつ、脳が話し始める。
「胃よ、今日の気分はなんだ?」
そこへ鼻が横槍を入れる。
「今、焼き鳥の匂いがしてきたよ!」
それを受けて胃は答える。
「焼き鳥にビールです」
タレが炭火に落ち、脂とともに香ばしい煙を上げる。"鰻は煙で客を呼ぶ"なんて言いまわしがあったな、焼き鳥も一緒だな、なんて思いながら暖簾をくぐる。
カウンターに座り、ビールのジョッキを一つ、注文する。
お通しを運ぶついでに、注文を聞かれる。
「砂肝とハツとナンコツを、塩で」
注文を受けて店員がカウンターの向こうへ入る。
お通しに箸を伸ばしながら、生ビールをゴクリと一口。
店内は騒がしすぎず、静かすぎずでちょうどいい。
皿に載って注文が運ばれてきたとき、鼻が言った。
「おい、どうしてタレの匂いに惹きつけられて店を選んだのに、塩で食ってんだよ」
脳は返事に困る。
胃も黙っている。黙っていると言うより、お通しとビールを消化するのに手一杯だ。
自分でも不思議だ。鼻の言い分はもっともで、しかし目の前にあるのは鶏の内臓に塩をまぶしたもの。
暖簾をくぐるまでは、皮やつくねにタレがかかったものを注文するはずだったような気もする。
しかし、席に座りメニューを見た瞬間、臓物系がならんでいる所まで思考はスキップしていた。
「ダイエット中だから、脂っこいものはちょっと遠慮しよう」
以前に体内で取り決められた採択を身体は忠実に守っている。
色んな意見が交錯し、脳が"編集"する。とてもがんばり屋だ。
宿主であるオレは酒を飲みながらもダイエットはしたい。
みんな、存分に頑張ってくれたまえ。