私はバスに乗っていた。
不思議なもんで、時折そのバスの上に移動して誘導したりもしていた。
狭い道で対向のバスとなんとかギリギリですれ違い、席へ戻った。
気持ちよく晴れていて、終点までもう少し、といった所でバスは停まった。
一人の男が乗ってくる。
見た目には若いのか私より年上なのか判然としない。
20代後半〜30代前半というのはそんなもんだ。
男は誰に釈明するということもなく、一人でベラベラと喋りだした。
「いや〜、僕がここからバスに乗ったのはね、子供を保育園まで迎えに行くためなんですよ」
ほう、子供がいるのか。にしても、何故みんなに向かってタメ口なんだろう。
「普段は車で行ってるんですよ。今日は子供を預けて、サッカー賭博をしていたんですがね、大負けに負けて、車を売るハメになったんで、バスで向かうってーワケです」
タメ口は少々直ったようだ。でも生活振りが気に食わない。
でも、私はおとなしく席に座ったままでいた。
「いや〜参りましたよね〜。でも、なんつーか、借金作って車を売り飛ばしてって、ROCKっすよね、ヘッヘッヘ。」
私はキレた。「おまえの言うROCKはなんだ。」「本当にROCKをしているヤツを馬鹿にするな」「子供をなんだと思っているんだ」そんな思いがほぼ同時に駆け巡る。
席を飛び越えて男に向かい、頭を小突いて、喉を掴んだ。頚動脈と頚静脈に指で力を入れる。
男はまだ、ニタニタ笑っている。
私は喉を締めていた右手を離して、左手で男の頬を張った。
男は吹っ飛び、落ちたところでなぜか魚になった。
鰯くらいの大きさだろうか。ビチッビチッと動いている。
尚も私の怒りは冷めず、魚を掴んで力の限り投げつけた。
ようやく運転手が私を止めに来た。
魚は、今度は鯖くらいの大きさにまでなっていた。
が、もう動いていない。文字通り、死んだ魚の目でこちらを見ている。
いつのまにかバスは、ログハウス調のキッチンに変わっていた。
私は新聞紙で鯖を包み、レジ袋を二重にして縛って生ゴミ入れに捨てた。
血の着いた床を生姜入りの酢で拭き取り、オレンジオイルを"むく"の木目にすり込んだ。
"スラッグ渓谷の朝"が枕元で鳴る。
昨日食べた焼き魚と、今日は雨だから早起きしてバスに乗らなければ、というのが合わさったのだろうか、
全く意味のわからない夢だった。
起きてリビングに行くと、息子が裏返しのパジャマのままサラダを食べていた。
「夢見れた?」と聞くと、『ぜ〜んぜん』と言う。
「じゃあ、裏返しに着るのやめなよ」と言って洗面所に向かう。
バスは2分ほど遅れて停留所へ来た。
長い一日が始まる。
今夜は晴れるだろう、満月が見れるといい。