HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

イノオト君

イノオト君という友達がいた。本名は井上浩人なのだが、小学校五年の時、四時間目の授業中に彼の腹から盛大に音が鳴った。体育で疲れ切った後の道徳の授業だったので、教室内は静まっていた。担任の先生は爆笑が起こる室内をなだめながら、これは仕方のないことなんだ、誰も胃の中の空気をコントロールできやしない、と彼をかばった。もちろん、当の本人は根っから気さくな人間だったため、むしろこの状況をオイシい、と思っていた。この日から彼のアダ名はイノオトに決まった。給食のとき、配膳係は彼に大盛サービスをした。

僕は特にイノオト君と仲が良かった。休み時間は一緒にドッジボールをしたし、三角ベースでも同じチームになった。放課後は僕かイノオト君かどちらかの家に数人で集まり、ファミコンを交代で遊んだり、マンガを読んだりした。もちろん、外で草ムラ相手にチャンバラみたいな遊びもした。

僕の通っていた学校はクラス替えが二年に一度だったので、六年生になってもその関係は続いた。誰が誰に片思いしてるとか、アイツとアイツは両思いかもなんてささやき合う平和な学校生活だった。修学旅行でも僕たちは同じ班になった。五年生の野外活動の時より自由だったし、お土産(基本的に自分への)を選ぶ時間は楽しかった。僕は勉強はできたけど走るのは不得手だったが、イノオト君は足が速く、小学校最後のマラソン大会でも上位だった。

卒業文集と、卒業証書を手に僕たちは巣立った。

文集を開く。みんな六年間の思い出を綴っている。イノオト君も例外ではなかった。ただ、端っこの自由欄に"クイズコーナー"を見つけた。「Q:答えは次のうち、どれでしょう?五択です。ヒントは僕。【ア・イ・ウ・エ・オ】」まず、質問の意味が分からない。そして、正解をどうやって伝えればいいのか。しばらく悩んだ末、僕はもう一度文集の最初から読み、これかな?と思った。

中学に入っても友人のメンツはほとんど変わらなかった。僕はイノオト君をアダ名で呼ばなくなった。いまだに彼との友情は続いている。