急に気温が冷え込んだ数日間が過ぎ、今日はまさに小春日和と言えるほのぼのとした空気で街は満ちていた。
少し大きな通りに植えられているイチョウ並木は色を変え、陽ざしを受けて黄金色にキラキラと風にそよいでいる。
僕は自転車に乗ってゆっくりと午前中独特の質感を楽しんでいた。
立ち並ぶアパートやマンションのベランダには今日こそはと言わんばかりに色とりどりの洗濯物が干されている。布団を干す主婦もちらほらいた。
大抵の人々にとっては幸先のよい週末の始まりになるはずだった。僕にとっても。
遅めの朝食をどうしようか、ぼんやりとそんなことを考えながらペダルを漕ぐ。
開店時間が迫った飲食店からは食欲をそそる匂いがただよってくる。
ポケットの中で着信を知らせるバイブレーションを感じた。
緩やかに流れていた身体のまわりの空気に緊張が走る。
僕は自転車を停め、ブロック塀に腰かけて通話ボタンを押す。煙草に火をつける。
朝食の予定をとりやめ、一時間後にここからそう遠くない喫茶店へ行く用事ができた。