男はコンビニへ行く。
下見として時間帯を変えながら何度も足を運んでいるが、今夜が最後だ。
車をちょっと先の公園の脇に停め、ハンドルにもたれかかりながら煙草に火をつけ窓を開けた。
閑静な住宅街、よりは"ただの田舎"と呼ばれるであろう、寝静まった町のはずれだ。
バス経路沿いとはいえ、車の行き来もこの時間はほとんどない。
駐車場には車は停まっておらず、ゴミ箱とタバコの自販機が待ちぼうけをしている。
店に入る前に、自販機の陰でダミーの防毒マスクをかぶる。
滑り止め付きの軍手をはめ、ナイフを取り出す。
外から見る限り、立ち読み客もレジにも人はいない。
扉を開けると独特のチャイムが鳴った。レジの前を通り過ぎながら店の奥まで行き、横目で無人を確認する。
レジへ向かうと、奥の扉から店員がやってくる。
「らっしゃーませー」と言った店員の顔が凍りつく。
ナイフを突きつけてレジを開けさせる。店員の手から札数枚をひったくり、すぐさま出入り口へ向かう。
店員は追いかけてくる代わりに、レジからカラーボールを投げつけてきた。それが、肩に当たる。
走りながら札を尻ポケットにねじ込み、上着を脱ぎ捨て、車に乗ってアクセルを踏み込む。
月が雲間から顔を出して、蛍光塗料が光っている。