男はコンビニにいた。
二十年ほど前、親から継いだ酒屋を閉めコンビニエンスストアを開いた。
父が亡くなったことがきっかけだった。当然母は反対したが「時代に合わせよう」となだめた。
閑静な住宅街、よりは"ただの田舎"と呼ぶほうがふさわしい、と自分ですらわかる。
バス経路沿いとはいえ、車の行き来もこの時間はほとんどない。
そんな中でも、昼間は近所の主婦、夜には若者の溜まり場となり営業はできている。
しかしやはり何もかもが順調に行くとは限らないようだ。
先日、ナイフを持った男が強盗にやってきたのだ。
あいにくその夜は深夜のアルバイトが一人だけだった。
電話が鳴り店へ駆けつけると、我が店の駐車場はパトカーであふれ、ドラマでお馴染みの黄色いテープが貼られている。
鑑識が指紋採取をする中、一通り事情聴取を受ける。
「幸いケガ人も出ずにすみましたが、」と署員が言う。
店に客がいない時間帯を狙っての犯行であるらしい。アルバイトを帰らせ、レジ奥の事務所へ向かう。
「お店側でも何か対策を」と言われ何ができるか考える。バイトを増やすわけにはいかないし。
どうせなら、車通勤可にして駐車場に停めておくか。これならパッと見は無人には思われないだろう。
月が雲間から顔を出して、気分が少し明るくなる。