「人は"孤独"という言葉を知って初めて"孤独"になった。"幸福"という言葉を知って"不幸"になった」
最近読んでいた本のなかに、こんな台詞があった。立ち飲み屋に一人で入り日本酒を駆けつけ三杯飲み干す女性が言っていた。彼女は三十七歳だ。
「幸福」または「幸せ」という言葉を知ったのはいつだろう。何かの本を読んだ文章の中に書いてあったのだろうか。
「幸福」いや「幸せ」という気持ちになったのはいつだろう。父が誕生日にケーキを買ってきてくれたときだろうか。
「嬉しい」と思ってはいただろうが、「幸せ」とは感じていなかっただろう。僕に「幸せ」が訪れたのはいったいいつだったのだろう。
だろう、だろう、とうるさい文章だ。
考えても仕方がない、思い出せないことに時間を費やすのはやめた。陽が傾くのが早くなった秋の始まり。
また今年も冬がきて、寒さと足元の悪さを憂いながら過ごす日々がやってくる。灰色の空が続き、雨は夜更けすぎに雪に変わる。すっかり冷たくなった青空を垣間見るたびに、春を恋う。
今まで生きてきてみて、夜の次には朝が来ているし、冬は終わり春がきた。
少しでも春を先に感じたいなら、ちょっと南へ行けばいいだけの話だ。