HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

スモーク・オン・ザ・ドリーマー

口減らずで愛煙家の友人がいる。本当は友人とは言い難い、"離婚は墓場からの復活"と叫んだ例の男だ。

ある日の夕方、ヤツの家で酒盛りに呼ばれた時のこと。特に用事もない休日だったので僕は早めに到着していた。

部屋には何種類かのタバコの銘柄が置いてある。これは節操のない彼の人格そのものを表しているようで、ハリウッド映画を見た後はマルボロ、二日酔いでスッキリしたい朝用にメンソール、外国気分を味わいたい時のためのガラム、アメスピは本数の節約に一役買っているという。

この日も灰皿の中からアメスピのシケモクに火を点け、ヤツは話し始めた。
禁煙外来のコマーシャルが嫌いなんだよ。なんだよ"失われた寿命を取り戻す"って。あの医者はオレの寿命を知ってんのかよ』
「確かに。お前は明日、交通事故に遭わないとも限らないもんな」
『だろ、世の中の大半のやつらが自分は何歳まで生きるかわからない、中には占いとかなんとかに頼るヤツもいるってのにさ』

こいつは傍若無人で普段は愛想のないやつだが、時々ごく稀にもしかすると数年に一言くらいだが核心をつくことを言う。だいたいは文句か愚痴だが。

僕は自分のタバコに火を点け、ゆっくりと天井に向けて息を吐く。部屋の空気は霞んでいるが、夏にこの部屋で蚊に刺されたことはない。虫も顔をしかめるようなこの部屋で、僕は友人とは言い難い男とサシで酒を飲んでいる。

「でもさ、もし自分に子供がいて、あんな風に親の身体を心配してくれたら、オレは辞めるかもしれないな」
『マジかよ、それこそあのCMの思うツボだぞ』
「もし子供がいたら、の話だよ」
『まだ結婚に夢見てるのか?』
「そういうお前はバツ2じゃないか。一度で懲りずに二度も失敗している」
『人聞きの悪い言い方はやめてくれ。"二度蘇った"、こういうことだ。イエス・キリストでさえ一回しか生き返ってない』
「お前と聖人を同列にするなよ。少なくとも、結婚して幸せに暮らしている人たちのほうが圧倒的に多いんだぞ」
『夢から覚めてないだけだろ』