HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

ミンミンゼミの残党

ベランダで煙草をくゆらせていると、近くの木からこれまで毎日のように聞こえていた蝉の鳴き声がなくなっていることに気づいた。


三日間ほど灰色の雲が空を覆い、雨は降ったり止んだりを繰り返した。夜にようやく雲は散り、久しぶりの青空が再会の握手を差し伸べてきているような日の朝だ。


蝉の種類といえばパッと思いつく名前は6種類ほどだが、鳴き声を聞いて判別できるのはそのうち3種しか僕にはわからない。


秋の訪れに一抹のさびしさを感じながらも、僕は市街地へ向かう電車に乗り県庁近くの公園へ行く。気温はまだ残暑と言えるほどまで上がったが、照りつける陽射しの種類が違う。


公園は多数の樹木が人々の涼を供給していた。木々からは蝉の鳴き声がまだ聞こえていた。しかし、少し乾燥し始めた街の空気とはなじんではいなかった。これがヒグラシの涼しげな鳴き声だったなら話は別だが、ロックバンドのライブ会場でアンコールを求めるような熱量で鳴いているのはミンミンゼミだ。


木陰のベンチで文庫本を取り出し読み始めたが、どうにも蝉の合唱が気になってしょうがなくなりストーリーに集中できないので仕方なく読書をやめる。もう数日で鳴き声の主たちが生の終わりを迎えるのだと思うといくらうるさくても邪険に感じることはできなかった。


僕はそのままベンチに深く座り、鳴き声を聞き続けていた。蝉たちのライブにアンコールはない。