定時に仕事をあがり、ビルの外に出ると雨が降っていた。梅雨時期だから仕方ないとは思いつつ、朝の時点で傘を持たなかった自分を悔い、コンビニでビニール傘を買うかどうか迷っていた。
いっそBARにでも行って時間をつぶしてもいいんじゃないか?という選択肢もうまれた。しばらく車や人の行き交う道路を眺めていた。
右のポケットに入れていた携帯が振動する。メールではなく着信だ。パカッと電話を開くと、交際中の彼女からだった。
デートの誘いかな?と上気しながら通話ボタンを押すと、「あなたは口が軽すぎる!」とだけ叱咤されて通話は途絶えた。
どんよりと心が灰色の空と同じ色になった。オレなにか言っちゃいけないこと誰かに言ったっけ?と思い返すが、昨日の夜までにそんな話をした覚えはない。しかし、酒を飲んで記憶があやふやになったまま帰宅した夜はあった。確かめる術はない。
再び彼女に電話をかけようとしたが、どうせ言い訳がましくなってしまうだろう。携帯を閉じる。
いや、一応謝っておいた方がいいかもしれない。携帯をパカッと開ける。
何を喋ってしまったのか分からないまま謝れるのか?そんな言動こそ見破られてさらに状況を悪化させるだけじゃないのか?携帯を閉じる。
結局そのままBARへと向かう。ビールを飲みながら、こんな電話があったんだという話をし、スコッチをハーフロックで頼んで心当たりがないという話をし、バーボンをダブルで注文して、オレはどうしたらいいのかとマスターに相談する。
急に眠気がやってきたので店を後にする。地下で電波が繋がらなかったので携帯を確認するが、不在着信もメールも無かった。
一抹の不安と、開き直りの感情を抱えたまま、帰路へ着く。