“〜〜ーーーバラバラバラバラバラバラッーーー”
ローターが、周囲の空気をかき混ぜ、はじく音が聞こえてくる。
「板橋様、おはようございます!」
乗り込んでヘッドホンを装着するなり声が耳に届く。
『おはよう、今日もよろしく』
ヘリは飛び立ち、数分後には職場へ着く。
今日も当たり前のように一日が終わり、今日の日が暮れようとしている。
外は雪というか霙というか、本格的な冬が始まるのか焦らしてるのか非常に意地が悪い。
ヘリで帰るには遅すぎるな。ポケットから携帯を取り出し秘書にコールする。
「はい」
『ああ、終業後にすまないが、○○町まで迎えを手配してくれないか?』
「わかりました、30分で着くでしょう」
『わかった、それなら一杯引っかけながら待つよ』
きっかり25分後に、立ち飲み屋のおもてにブレーキ音が鳴る。
飲み屋の主人に勘定を済ませ、車に乗る。
『ご苦労さん、、あれ? 君がわざわざ来てくれたのかい?』
「こんな時間に他の運転手がつかまりませんでしたので」
『眼鏡をかけていないから一瞬誰だかわからなかったよ』
「プライベートでは外しているんです。ご存じなかったかしら?」
ドアを閉め、彼女はアクセルを踏み出す。
運転している、そのハンドル捌きの性格は、まるで私を試しているかのようだ。