彼と半同棲生活を始めてから、どのくらい経っただろう。
今日は残業なしで彼が帰ってくる日だ。
私は休みだったので、主婦よろしく洗濯と掃除とスーパーへの買い物を済ませ、キッチンに立っている。
鍋で肉を炒め、ジャガイモとニンジンとタマネギをコトコト煮込みはじめたところ。
1DKのアパートに、ルーの匂いが充満してきた。
トマトとサニーレタス、ツナとコーンのサラダも。
ドレッシングは彼の好みにあわせて、サウザンアイランド。
カロリーが気になるから、私はノンオイルの方がいいんだけれど、ホントは。
色々と考えながら、妙にハイテンションな自分に気がついた。昨日の雨降りとは一転、今日はポカポカとした晴れ間が多かったからかも。
日もすっかり暮れて、チャイムが鳴る。
エプロン姿のまま玄関へ、ドアノブのカギを開ける。
「ただいま」彼が帰ってきた。
日中のハイテンションのまま、私は前から言ってみたかったセリフを臆面もなく口にする。
『おかえりなさい
ご飯にする?
お風呂にする?
それとも、わ・た・し?』
「カレーにする」
彼はスタスタと部屋へ行ってしまう。
大事なことだから、もう一回。
「カレーにする」と"華麗にスルー"された私。
パタパタと彼の後を追いかける。
さっきのセリフはオヤジギャグだよ、と言いかけてやめる。
もしかしたら、私の変な思い込みかもしれない。そうだったら、彼は爆笑し、私は一人で赤面地獄。
皿にごはんをよそう。
ふと彼の方を見ると、目が合った。
ソファに座り、ネクタイをゆるめながらニヤッとしてる。
私の思い込みではなかった、けどツッコむにはもう遅い。
また、私の負け。