セットしていた目覚ましのアラームが鳴る前に目が覚めた。
なにか胸騒ぎがした、というわけではない。
壁にかかった時計を見るには、僕の視力は乏しすぎる。
前の日に『二度寝は五分まで』という情報を得ていたのだけれど、「実際そんなに早く起きれるわけないよな」なんて考えていた。
遮光カーテンがかかった南向きの窓、手を伸ばせば新しい朝の始まりを部屋に呼ぶ事ができる。
珍しく、いつもならもう一波やってくる眠気が来る気配がない。
しかし僕の右腕は動かない。
しかたなく目を閉じ、さっきまでいた夢の世界を反芻する。
僕は見知らぬ街の夜を歩いていた。
一緒に歩いていたのは二、三人だったが、誰かは分からない。どこへ向かっているかも分からない。
ただ、先頭を歩いていたのは僕だった。
昼間は交通量が多いであろう片側三車線の道路は静かだった。空港か港が近い。時計を見たわけではないから、正確な時刻はわからない。
少し先には橋を彩る水銀灯が見える。
その反対側には白い壁の洋風な住宅が並んでいて、僕達はその細い道路へ入っていく。
夜空を見上げると、これまでに見たことのないような数の星が一面に輝いていた。
今歩いているところが暗いわけじゃない。なんだったら街灯だって点いている。
だけど、よく晴れた山頂でしか見ることのできないだろう満天の星空がそこにはあった。
上を見上げながら歩いていると、まるで星が動いているようだ。
しばらくすると目が錯覚をおこし、空の闇が動いているように見えてきた。
まるで無数の微小な飛行物体が一斉方向に飛んでいるように見える。
それを僕の後ろを歩いている女性と男性に伝えたが、思うような反応はなかった。
目が疲れているのかもしれない。一度眼をつぶり、数秒経ったあとで空を仰ぐと、まだ満天の星空はあったけれど、何かが動いてはいなかった。
誰と歩いているかも分からず、どこへ向かっているかも分からず、音も聞こえず時間も分からない。
ただ薄ぼんやりと引っかかっているのは、何か大きなものが終わろうとする直前だということだけだった。
世界の終焉の三日前の晩、そんなような感じがした。
ここまで夢を辿ると、僕は目を開けた。
身体を起こして右腕を伸ばし、カーテンを開ける。夜が終わり、朝が当たり前のようにそこにあった。