「あなたの事が嫌いになったわけじゃないの。むしろ好き。でもね、もうダメなの。」
僕には彼女の言っていることが分からなかった。
単語は分かる。もちろん日本人だし、彼女も日本語を喋っている。
単語を繋げて文章になるのも分かる。そっくりそのまま復唱もできた。
分からないのは、発言に至るまでの彼女の思考回路だ。
女性の感情を分かろうとする僕は無謀なのだろうか。
「さようなら。」
彼女はそう言って去っていく。僕はただ立ちつくしているだけだった。
「ちょっとそこの君、いいかな?カバンの中身を見せなさい」
僕には彼の言っていることが分からなかった。
単語は分かる。もちろん日本人だし、警官も日本語を喋っている。
単語を繋げて文章になるのも分かる。そっくりそのまま復唱もできた。
分からないのは、なぜ僕が職務質問を受けなければいけないのかという理由だ。
警官の判断基準を分かろうとする僕は無謀なのだろうか。
「ご協力ありがとう」
警官はそう言って去っていく。僕はただ立ちつくしているだけだった。
一日に二度も、何も言い返せず立ちつくしていた。
いっそ婦人警官と付き合っていれば、一度で済んだのかな?などと思い始めている自分がいる。
まだ僕は立ちつくしたままだ。
今抱いている感情は悲しさなのか、淋しさなのか、悔しさだろうか。それとも怒りだろうか。
最初の一歩を右足から踏み出すか、左足から踏み出すか迷っている。