バスや地下鉄、電車の中にはいろんな人がいる。
よくよく考えれば、同じ時間の同じ方向に乗り合わせているのだから、一概に全くの他人とは言い切れない。
でもまあ、いろんな人がいる。
頑なに優先席を拒む老人、
湿ったオガクズみたいな臭いの人、
連立方程式と16進数について話す女子高生、
二人掛けの席に荷物を座らせている人、
ぶつぶつ独り言をつぶやいてる人。
一番多い種類が、携帯をいじってる人々。
乗り合わせた人達の詳細まで勘繰る気はないけど、視界に入ったいろんな人の“人生のすき間”は想像してしまう。
そんな勝手なやりとりに嫌気がして、
僕はイヤフォンを耳に突っ込み、
再生ボタンを押す。
目を閉じれば、よけいな情報はシャットアウトできる。
耳から入った音楽だけが、僕の脳を支配している。
夜空に瞬く星と同じで、
作り手が演奏した瞬間、
発信した瞬間、
その楽曲は過去のものとなり、
幾つかのタイムラグを経て今自分は享受している。
イヤフォンからは、晴れた冬の午前中にピッタリな曲が流れてくる。
それは夜のうちに積もった雪に反射した陽射しのように、
温もりのある寂しさを感じさせる。
僕は目を閉じたまま、
まぶたの裏の赤さと、温かさに寄りかかってみる。