彼女は、私の反対を押し切って出て行ってしまった。
「この方が家族の為になるでしょ」そう言って。
私は、人間の弱さというモノを知っているつもりだ。
もちろん、自分自身がその中でもとりわけ弱い部類に属していることも。
これまで生きてきた数十年の経験から、私は反対した。
自分の弱さを押しつける気はないが、起こり得る可能性としては大きいだろうと思い、忠告した。
それに伴う他の危険性、自分達の環境を熟考したうえで。
しかし、彼女は行ってしまった。
もうすぐ本格的な冬がやってくる、そんなとある日に。
不思議なことに、そのとき私は”喪失感”というモノを感じなかった。
心のどこかでは、それを望んでいたのかもしれない。
既に過去の出来事であり、起こってしまったことは翻らない。
受け入れて、日々の生活を送るだけだ。
彼女はコタツを買いに行ってしまった。
案の定、私は何度となく冬の朝をコタツで迎えてしまっている。