むかしむかし、とある所に一組のカップルがいた。
と書き出すと、昔話と勘違いされる恐れがあるな。
果たして、"カップル"という単語もどうなのか。
ある所に、付き合っている男女がいた。
他がどのくらいで付き合っては別れているかは知らないが、まあまあ長い方だと当の本人たちは思っているので、そのように思ってもらえれば。
しかし、長く付き合っていると、様々なところに微妙な"ずれ"が表れてきてしまうものだ。
たとえば、食の話。
彼は冬でもザル蕎麦を食べるが、彼女は通年、温かいうどんの方が好きだ。
彼は甘いモノをほとんど食べない。彼女は、どんなに満腹でもデザートにスイーツは欠かさない。
彼は焼酎やウイスキーに目が無く、彼女はずっとビールでいけるくち。
食以外のことでも。
猫派か犬派かと聞かれれば、彼は猫好きだったし、彼女は昔から家で犬を飼っていた。
百獣の王、ライオンが彼は好きだった。彼女は、トラの方が好きだ。それはライオンがハーレムを作って暮らすのに対し、トラは一匹で行動することが多く、そこがカッコイイという理由だった。
彼は熱い湯にさっと入る風呂が好きだったし、彼女はぬるい湯に半身浴で軽く一時間は過ごした。
遠出するにしても、彼は新幹線で時間を節約したがり、彼女は鈍行でいいからゆっくりと景色を楽しみたいタイプ。
それでもって、彼は海派で彼女は登山派。
そんな細かな好みの違いが、積もり積もっていく。
うっすらと、最初は気付かない程度に、だけど確実に。
結局、彼と彼女は別れてしまった。
でも。
よくよく考えてみれば、二人とも和風な麺類が好きだし、動物も好きでペットを飼うことにも異論はない。
酒が好きだから、旅行は車を使わないし、デザートの取り合いをすることもない。
アウトドアが好きだったし、どうせ男湯女湯は分かれている。
細かな違いこそあれど、二人とも完全に趣味が別々というワケではなかった。
むしろ大きくみれば似た者同士だ。
とはいえ、二人がようやくその事に気付くのは、もう少し先のお話。
二人の人生に新しいストーリーが加わるのも、もう少し先のお話。