「どうも、今日はよろしくお願いします。」
『よろしく』
「いかがですか、この度ヴァンパイアになられて」
『特に、なにがきっかけってワケでもなかったからな〜 今まだ実感ないね』
「ある日、急にってことですか?」
『朝起きて鏡を見たらビックリしたね。もともと歯並びはいい方じゃなかったから、よく言えば”八重歯”ってことにしてきたんだけども、ほら、目が真っ赤だろ。こりゃー昔みた映画かテレビにでてきた”ヴァンパイア”そのものだな、と思って。
実際、自分にビビッたな。』
「やはり、日光の中では生きれないんですか?」
『いや、そんな事はないよ。ただ、目がとっても痛むね。日陰とか、人工の照明なんかは問題ないんだけど。でもこのサングラスで結構充分だよ。大概の人間は、この目でひいちゃうから付けてる、ってこともあるんだけど』
「人間界との関わりは、今後もお続けになるんですか?」
『そりゃそうだよ。実際には”ヴァンパイア”と言ったって、食生活、顔つき以外には人間と変わらないんだし。それに、生物学的に言えばまだまだ希少だから、人間の供給する文化に頼らなくてはまだダメだな。』
「食生活はやはり人間とは違うんですか?」
『ある程度の栄養は、人間の時と同じだね。炭水化物・食物繊維・ビタミン・アミノ酸・たんぱく質はヴァンパイアになった今でも必要としてる。
根本的に違うのは、体力的な栄養じゃなくて、いわば精神的な、”生きる”ために必要な栄養だ。活力と言ってもいい。こればっかりは人間の血じゃなくちゃ摂取できない』
「生き血ですか…」
『あ、安心してくれていいよ。自分は男性の、人間のオスの血じゃダメなんだ』
「なにか違いがあるんですか?オスとメスの血で」
『ちょっと立ち入ったことを質問してしまうけど、君は、性同一性障害だったり同性愛者だったりするかな?もちろんオフレコでかまわない』
「いえ、全くのノーマルです。現在も付き合っているのは完全に女性ですし、彼女以外の女性にも欲情はします」
『それと同じで、僕も要は”ノーマル”ってことさ。人間時代に”ノーマル”だったら、ヴァンパイアになっても”ノーマル”になるらしい。気をつけなよ、万が一ホモのヴァンパイア相手にインタビューなんかしたら、君に襲いかかるだろう』
「きまずい話ですね」
『それが当たり前なんだよ。ヴァンパイアにとっての”吸血行為”は人間のセックスと同じなんだ。ただ、人間時代よりストライクゾーンは確実に広がったかな。』
「吸血相手のルックスってことですか?」
『そう。確かに、美貌・性格によって違いはあるけどね。美味いハンバーグでも、そこら辺のコンビニに売っている安いハンバーグでも、”ハンバーグを食べた”事には変わりはない。
もちろん、容姿端麗・才色兼備なのは最上だけど。滅多に出逢えるワケじゃない。君だって、今付き合っている彼女にはなにかしら不満はあるだろう?』
「細かいことを言えば、100%の女性と付き合っている、とは断言できませんが。それでも今の彼女以外には考えられませんね」
『彼氏としては立派な答えだ。だが、より良い種族を残そうとする動物的本能には少々及ばないな。』
「逆にこっちがインタビューされているような感じですね」
『あぁ、すまない。人間時代にはわりとよく喋る方だったからかな。今回の趣旨が脱線してしまうね。
他に聞きたい事はあるかな?』
「そうですね〜。今後のヴァンパイアとしての抱負なんかはありますか?」
『難しい質問だね。とは言っても、まだ日が浅いからなー。
ひとまず、目標という目標はないかな。永遠の命も手に入ったことだし、ゆっくり今後の身の振り方を考えたいな。』
「・・・」
『こんなところで、インタビューは終わりかな?』
「・・・」
『どうしたんだい?インタビュアーが黙ってちゃ続かないぜ?』
「君は、ヴァンパイアじゃない。」