小雨の中を僕は歩いている。
将来の夢は売れない画家。
なぜ「売れない」画家なんだって?
ゴッホが好きなんだ。
彼の存命中には誰も彼の絵に見向きもしなかったという。
それでも、彼は死ぬまで絵を画いていた。
ここに、「幸せとはなんだろう」という問いが浮かんでくる。
僕は小雨の中を、傘もささずに歩いている。
これでも美大生なんだ。
売れない画家が夢なのに、なんで美大に通っているのかって?
"パトロン"を見つけるためさ。
"芸術家"に必要なのは、才能じゃなくって"出資家"なんだって誰かが言ってた。
僕の叔母さんも、若い頃に繁華街のクラブで"パトロン"を見つけて悠々自適の生活さ。
叔母さんも"芸術家"の部類に入るのかな。
僕はもうすぐやみそうな雨の中を歩いている。
このあいだ、ミスして旅行の計画をオジャンにしてしまった。
今は、「きっとその日は雨が降るんだろう」と思い込むようにしてる。
多分、小雨じゃなくてさ。
目下の問題は、今日の昼食を何にするかって事。
時計の修理ついでに、近くのパスタ屋でもいいな。
肌寒いから、辛めの中華も捨てがたい。
でもさほど、腹が減っているってワケでもないんだな。
画家になるために、まず髪を伸ばそうと思う。ベレー帽が似合うようにね。
僕は壊れた腕時計をつけたまま歩いている。
とっても幸せな二度寝を繰り返した朝に時計は止まっていた。
別に直さなくてもいいんだけど、このままじゃバスにも電車にも乗れないからね。
"パトロン"との待ち合わせの時間もわかんなくなっちゃうし。
僕は傘を買うついでに煙草を買った。
僕は煙草を買うついでに傘を買った。
僕は画家になるために絵を画く。
僕は絵を画くために画家になる。
狼は羊をだますために皮をかぶる。
狼は皮をかぶるために羊に近づく。
太陽が月を追いかけて西へ沈む。
月が太陽を追いかけて東から登る。
僕は小雨の中を歩いている。
僕は傘を差して小雨の中で立ち止まる。
目を閉じて俯いて
意識的に思考回路のスイッチをオフにする。
パチン。