僕は北へ向かうバスへ乗った。
川を渡る橋にさしかかり、川面で魚が飛び跳ねたように見えた。
川沿いに一本だけ堂々とした木があって、そのすぐ近くに小さい灰色の鳥居が隠れるようにあった。
多分、水神が崇められているんだろうな。
そのご神木であろう堂々とした木と、その鳥居が建てられた時代に思いを馳せてみたが、一瞬でやめた。
地下鉄へ乗り継ぎ、思い立って違う駅で降りた。
僕は覚えたての煙草に火をつけ、ちいさな堀沿いを歩いた。
気温は高かったけれど、強い風のせいで体感温度はちょっと低い。
煙草を根元まで吸い終わると、近くにあった灰皿へねじこんだ。
風が強くなければ、時間はもっとゆっくり流れていたかもしれない。
急ぎ早に人々が僕を追い越していく。
コートのポケットから手を出して、最近丸まり気味だった背中を、姿勢に注意しながら歩く。
「世の中は僕のために回っている」
そんなふうに感じた瞬間、心臓に亀裂が入ったような痛みがやってきて、僕はその場にうずくまる。