HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

残り香

何年か前の話。
年上の彼女と付き合っていた。


中学生の頃は、マンガに出てくる主人公とかスゲー年上に感じたし、
高校生の頃は、大学生活がものすごく自由を謳歌しているようだった。
大学に入れば入ったで、社会人として働くことが大人に思えた。



彼女と付き合っていたのはそんな頃の話。


とある春の一日を思い出す。



『電車混んでたな〜〜』
「今日は人が多いわね」
『春休みだからな〜』
「あ〜そっか。そんな休みがあったなんて忘れてたわ」
『忘れるかー普通。社会人3年目っしょ。』
付き合いたての頃は敬語だったのが、今は自然とタメ口になっている。
改めて考えると、どのタイミングで切り替わったかなんて思い出せない。
「学生クンと違ってね、色々あるのよ。忘れちゃう事も多いの」
『それ、ちょっと見下してない?』
「ふふふ、ごめん、ごめん」

『あ〜そうだ、こないだサークルの飲み会で話に出たんだけどさ、"後ろ向きに歩くと若返る"って話聞いたことない?』
「全く持って初耳。っていうか、そんな話信じてるワケ?」
『いや、信じてるっつーワケじゃないんだけど。でもさ、ホントだったら面白くない?試してみようよ。』
「絶対にイヤ」
『恥ずかしいの?』
「そういうことじゃない」
『女の子ってみんな、若さを保つ、とかそんな事に興味あると思ってたのに』
「いい、私はね、若返りたいなんて思った事はないの。たとえ、このままこの年の差のせいで何かがアナタとの間に起こったとしても、それは若さは関係ないの。
そりゃ、初対面の人と同い年ってことで盛り上がることはあるけど、結局は産まれた場所も違えば育った環境なんかもまるで違うわけだし、年が一緒だからってそこまで特別かっていうと、そんな出来事じゃないと思うのよ。」
時折、会話の中で見せる彼女のそういったキッパリとした何かが好きだった。
そんな時に、彼女は紛れもなく年上なんだな、と感じる。
だが、それは全然悪い意味じゃなくて、むしろ憧憬の対象として。そんな彼女と付き合っている自分も誇らしげにさせてくれる。

"後ろ向きに歩く"話はそこで終わった。






その後は、公園に行って手作りサンドイッチをご馳走になったり、夏にはレンタカーで海を見に行ったり(彼女は社会人だが車は持っていなかった)、街をブラブラとウィンドウショッピングしたり、映画を見てはあーだこーだ言い合ったり、冬には温泉に一泊旅行に行ったり、クリスマスにはちょっと背伸びをしてコース料理をおごったり(バイトの数が増えたのは言うまでもない)、お互いの誕生日にはプレゼントを贈ったりもらったりした。









その後、彼女が幼なじみの同級生と結婚して、まもなく一児の母になるって話を風の噂で聞く事になろうとは思ってもいなかった。

たまに春の駅のホームで突っ立っていると、彼女の事を思い出す。

きっと春の風に彼女の残り香が含まれていたのかもしれない。




















エイプリルフールって、妄想癖のある人間には嬉しい一日だね。