「今月31日で人類は滅亡します」
町内会の回覧板のような軽さでニュースが飛び交った。
政府発信なのか、世界的機構発表なのかソースは不明だが、今じゃ道行く小学生だって知っている。
不思議なことに、とある一定数の人々は全くこれまで通りの生活を営んでいた。
八百屋もスーパーも開いている。金を払えばもちろん品物を買うことができる。
流通が機能していないこともないようだ。
かくいう自分も、ふとした瞬間に頭が混乱することはあるが、普段通りの生活をしている。心の奥に不安を押し込めながら。
何の対策も心構えもできないまま、3月は30日になった。発表通りなら明日、世界が終わる。
と言っても、人類が滅亡するだけで地球が丸ごとなくなるわけではないらしい。某SF映画のように隕石がぶつかったり、異星人が攻め込んでくるわけじゃない。だからこそ、対策が立てられないのだ。
寝て起きたら何らかの解決が、一番いいのは嘘だったってことだが、なんとも他人任せなまま一睡もできずに日付は変わった。
近くの学校に人がちらほら集まっている。
敷地へ入って東の、太陽が昇ってくる方角へ目をやると、校庭の奥がなにやらうねっているように見えた。
地面が波打つように動き、それは少しずつ近づいてくる。
うねりに合わせて間欠泉のように衝撃波が噴き出す。校庭中央ら辺にいる人たちはその衝撃波に触れ、泡のように蒸発した。
ああ、これが最期か。
覚悟は出来ていた。あれに近づき、痛みを感じずに終わることができるなら、無理に運命に抗うことはないんじゃないかと。
つもりだった。
衝撃波がすぐそこまで、と迫ってきたとき、僕は後ろを振り向き駆けだしていた。
まだ、終わりたくない。