グラスに注いだ酒に、氷がゆっくりと融けていく。
ゆらゆらと底の方に向かって、たなびく川面のようだ。
気温が低いのにもかかわらず、何故冷たい酒を飲み、挙げ句の果てに外で夜空を仰いでしまうのか。
まぶたが少しずつ重くなってきている。そっと目を閉じ、意味ありげに開く。目線は一点を見つめたままで。
見つめるその先に、貴方の顔が、貴方のその瞳があったなら。
今なら何も臆せずにさらけ出してしまえるのに。
今なら、言えるのに。
グラスを口元に運び、少しだけ口に含む。
口に出しそうになった言葉と一緒に、飲みこむ。
グラスにうっすら付いた口紅を、親指で拭う。
まだ、化粧を落としていなかったんだっけ?
着信ランプに期待していた自分を嘲笑う。
明日がやって来るのをこんなに拒否するなんてことが、あるのね。
宙ぶらりんの感情は、行き場を失ったまま。
綺麗な月の隣で、私を見下ろす。