目の前にピザ生地がある。
塊の上から力を込めて、平たく潰す。
棒を使って延ばす。
一心不乱に、ただただ延ばしていく。
もはや、それはクレープだろ、と言いたくなるくらいまで、ひたすら延ばす。
薄くなりすぎた箇所から、亀裂が入って穴が空く。
煙草を吸いながら、そんな光景を惚けて眺めていた。
頭の中に、ピザ生地と同じような塊がある。
そこに、一定量の記憶が詰め込まれていく。
キャパシティオーバーになった分から、どこかに消えて行ってしまうのものもある。
長く、(と言ってもたかだか数十年)生きてきているうちに、色々な事を詰め込んで、忘れていく。
客観的にもどうでもいい事も残り、大事なことであろうと忘れていく。
ピザ生地みたいに、延ばしすぎると破ける。
誤解されたくはないので弁解しておくと、なにも長生きを否定しているわけじゃない。
記憶の許容量は、自分じゃなかなか大きくなっている実感は掴めないから、
新しい物事に直面するたび、失くしてしまっているものがあるように思えてしまうだけ。
まだまだ死にたくはないし、自己中心的な考えながら周りの誰にも死んで欲しくはない。
悲しい思いはしたくない。
ただ、忘れるとか失うためだけに生きていたくはない。
ヘリウムの軽さで空へ飛んでいきそうな風船も、できれば跳び上がって掴みたい。
でも、嫌な事はさっさと忘れてしまいたいんだなぁ。
ここが人生の難しいところ。
忘れるとか失うためだけに生きていたくはない。
答えを教えてくれよ、って誰かが言っていた。
隣で僕はただ悩んでいるフリをする。