「今朝さ、朝メシの前に看護師が食器とかの準備に来たのよ。オレ動けないからさ、毎回やってくれてんだけど」
『ほう』
「そん時、ついでに尿瓶を交換に持って行ったんだね。でも、なかなか帰って来ないまま、別の看護師が朝メシ運んで来たんだわ」
『うんうん』
「特にもよおしてたワケでもなかったし、そのままメシ食い始めたんだけど、途中で牛乳飲んでるときにふと思いついたんだ」
『何を?』
「もしかして、尿瓶は忘れられたんじゃないのかもしれない」
『どういう事?』
「あの看護師は、尿瓶がない状況で我慢している患者を観察しては楽しんでいるSなんじゃないかってね」
『んなわけないだろ〜』
「いや、可能性は否定できない。あらゆるどんなことにも、選択肢とか考え方ってのはたくさんあるんだ」
『そんなん、ナースコール押して言えば済む話じゃないか』
「そうだ、ただこのボタンを押して解決してしまう前に、色んな可能性は推察しておくべきなんじゃないかってね、思ってしまうんだよ」
『オマエそーとーヒマなんだな。もしそのナースがそんな性格だったとして、患者がうっかり漏らしてしまったらどうする?単純にそのナースの仕事が増えるじゃん。』
「そこは看護師もぬかりなく相手を選んでるのさ。“コイツはギリギリまで我慢しそうなタイプだな”とか接してるうちにわかるだろ」
『さっきから、“看護師”って言ってるけど、“ナース”のほうが言いやすくないか』
「オレはここの病院のは“ナース”とは認めない。ナースキャップもかぶってないしナースサンダルも履いてないし、ましてやスカートですらない。パン工場の従業員みたいなカッコでは“ナース”とは呼べないだろ」
『しかも、平均年齢はオレらよりグッと上か』
「もしもタイムマシンかなんかでちょっと過去に戻れるなら、救急車の隊員に“この病院はやめてくれ、入院するなら別のトコに”ってお願いするね」
『まぁ、諦めろ。タイムマシンなんて存在しないし、あったとしてもオマエは使い方を間違ってる』