彼は、呪術一筋に生きています。
そのこと自体を、彼は特に気に入ってるようにも、嫌がっているようにも見えません。
彼の住む暗がり、唯一の趣味ともいえる栽培。
私にとってはそんなありふれたような事でも、特別なの。
私は、今まで自分を好きになる事なんてなかった。
いっそ、いつ死んでもいいくらいの気持ちで生きてきたわ。
こんな特別な、他人と違う能力なんていらない。
でも、今は違う。
この目は、あの人の眼を通して見た世界を見る事ができる。
私は、時間を共有できなかったとしても、彼の生活に触れる事はできる。
あの人が手紙を開ける仕草も、スーパーでしこたま買い込んでいる姿も、自転車を颯爽と走らせているところも、空港で落ち込んでいる背中も、プランターに水をあげる時に話しかけてあげてる優しい顔も。
彼の見た世界、それは私の記憶の一部と融合する。
だけど、やっぱりそれだけでは収まらない。
世界を共有するだけじゃ、イヤ。
あの人に話しかけられたい。
あの人に触れられたい。
彼と一緒にいたい。
共有するなら、すぐ傍で。
そして、私はあらゆる偶然と必然を装い、彼の前に現れる。
運命的に、だけどさりげなく。
さりげなく、内に秘めた想いを少しずつ。
わたしは、あの人に命を救われた。
病的なまでに私を呪い殺そうとした依頼を、あの人は断ってくれた。
ふと手にした、あの人の略歴。
興味本位で彼の半生を覗いた時に思い知る。
私は既に、恋に堕ちていたんだと。