「お前って、ポジティブな方だよな?」
『なにしたん?急に』
「オレもわりかしポジティブな方だとは思うんだ。何かにつけ、"多分、きっと大丈夫"って思ってるような」
『"多分、"と、"きっと、"って矛盾してないか?まぁ気持ち分からなくはないけど』
「んでもって、世界中が、幸せになる事を願ってる」
『急に話のスケールがデカくなるねぇ〜〜』
「でも、もしかしたらそう思ってるのはオレだけなのかもしれないって、こないだ思ったんだ。」
『あらら。何があったんだい』
「映画を見ててさ、あ、別に彼女とじゃないぜ?」
『お前が彼女と映画に行こうが、一人で見てようが、オレにはどうだっていいよ。早く先を話せ』
「ああ、そんでさ、ストーリー的には復讐とか、世界の終焉とか絡んでくる、SFホラー系だったんだけども」
『どんな映画だよ、それ。よく上映してるトコがあったな』
「まぁ、続きを聞けよ。その映画の終わり方が悲惨だったわけ、結局主人公たちは何一つできませんでした、的な。その後にエンドロールが流れるだろ、安っぽいことに、テレビドラマなんかでよく最後に出る"この話はフィクションです"っていう字幕も入ったりして。」
『安っいねー』
「そんで、その時に思ったわけだ。今見た悲惨な結末を迎えるこの話はフィクションなんだと。」
『ノンフィクションの映画の方が少ない』
「フィクションなら、もっとハッピーエンドにしたって良くないか?こんな嫌なニュースが氾濫しているとこで生きてて、なんでフィクションの中だけでもハッピーエンドにしないんだ?そう思った時、世界の平和を願っているのはもしやオレだけか?って考えてしまったんだよ」
『IFSAって組織知ってる?まあ、知らないだろうけど』
「なんだそれ?」
『インターナショナル・フィクション・ストーリー・アソシエーション、全世界架空寓話協会。』
「世界規模の組織?全然知らんかった」
『この世の中に送り出される映画、ドラマ、マンガ、小説、曲の歌詞、誰かが作ったあらゆるストーリーは、いったんそのIFSAで検閲されてるんだよ。どんな些細なものだろうとね。出版社とか、配給会社とか、みんな加盟してるから、検閲までの流れはとってもスムーズなんだ。でもって、その協会の会則に取り決められていることがある。』
「何を??」
『"ハッピーエンド"と"アンハッピーエンド"の総量は同率でなくてはいけない、ってのがあるんだよ』
「なんでだよ」
『組織自体は、かなり古くからあるものだから、会則の発端まではわからないけど、要するに"フィクション"の世界がハッピーエンドに偏ってたりすると、現実社会から逃避する人達がでてくる。逆に、アンハッピーエンドばかりだと、人々は映画だったり小説だったりに興味自体を失ってしまう。だから、バランスを取らないといけないんじゃないかな。』
「そんな縛りがあったのかよ。っていうか、みんなその決まりは守ってるわけ?」
『組織の力はとてつもなくデカい。今後一切の発表の場を妨害することだって容易いんだ。ただ、協会は作品の中身に修正とか、そういうものは求めたりしない。フィクションであるか否か、ハッピーエンドかそうじゃないか、それだけだから、作者側には特に不満はないんだろう』
「そんな巨大な組織なら、どっかの誰かの知り合いとか居そうなモンだな」
『存在自体は一応公表してるけど、所属していることは絶対に口外できないように決まってるからな。どんなに生活が不便そうなド田舎にも、人が住んでるのはそういう理由があるからかもしれない。』
「しかし、お前ってなんでも知ってんなぁ。まさか、『今の話は全部フィクションでしたー』なんてオチはないだろうな?」
『どちらにせよ言えない立場にあるんだよ、オレは。』
「なんだか色々大変そうだな、ま、生きてくってのは大体そうだもんな。」
『せっかくの週末に男2人、ってのもなんだから、飲みにでも行こうぜ。』
「新たな出会いを求めて!ってとこか?大賛成だな」
『美味いメシ食って、美味い酒飲んで、なおかついい出会いがあったりしたら、それこそ最高だろ、ポジティブ思考のオレ達には。』
「よし、じゃあ、この会を"ポジティブ会"と命名しよう!」
『そのネーミングは、嫌だ。』