HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

ネガティブ・ホロウ

彼は突如現れた、人間不信に陥っていた。陥っていた、というよりはむしろ憑り付かれていた。


今まで笑ったり、泣いたり、怒ったり、真剣な話で熱くなったり、バカげた話で盛り上がったり、歌ったり、騒いだり、飲んだり、メシ食ったりしてきた人々全てが、自分から離れているように、離れていくように感じ始めた。

その後、全てを疑うようになった。

今でも時間を共有している人は、きっと自分を監視して他の場に行かせないようにしているためだ、
とか、
協力的に相談に乗ってくれたり、助言をくれたりする人は、ホントは逆の方向へ進む事を誘導していて心の中ではほくそ笑んでいるに違いない、とかとまで考えるようになった。

服や電化製品の細部を語り、薦めてくる店員や、
路上でティッシュ配りをしているアルバイトの娘までが、
何かしらの危機への始まりであるような不安に覆われていた。


彼が唯一、安心できるのは街でただすれ違うだけの人々だった。
そこには全く知らない顔の人間たちだけが存在していて、自分とはこれまで関わったことはない。それだけの理由だった。




空は晴れているのに、心の奥底からどんよりとしたモノが湧き上がってきて、どうしようもなくなった。

いっそのこと、森の中にでも独りで住んでしまった方がよっぽどマシだ、と考えた。
が、それと同時に、そうやってそこで生きていく事に意味はあるのかと疑問に思えた。
彼はむしろ、人と人との繋がりで成り立つ仕事をしてきたから、全く誰ともコミュニケーションを取らないという人生に絶望した。
かといって、これから好転する気配すら見せない不信感も消えるはずが無い。


岐路に立たされた彼はますます絶望し、何故か夜を待ち始めた。