HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

気功

朝早く起き、彼はテレビを見ていた。

晴れた日曜、前日よりは暖かな日になりそうだ。

散歩もいいか、などとは微塵も思わず、ソファに座ったまま。



ブラウン管の中では、異星人と闘うアニメを放送している。
地球人と思い込み育ってきたが、主人公もまた、異形ではないが異星人なのだ。

彼らは「気」を自在に使いこなし、手のひらから放出させることもできる。その威力たるや、山はおろか月までも消し飛ばすほどではあるが、鍛え上げられた肉体にはかすり傷一つ負わせられないという側面も持っている。


この強いか弱いか分からない気功に憧れ、全身全霊を込めて、両手のひらを突き出した記憶がある。

歯を食いしばり、こめかみに血管が浮くほど力を入れ、呪文のような技の名を叫びながら、両手のひらの間に意識を集中する。

無論、重力に逆らいながら筋力トレーニングを行ってなどいない付け焼き刃の体力では、一日に2度もその行為をすれば気絶しそうなほど消耗してしまう。


ましてや、家の中の自室で行っているものだから、万が一成功して波動砲のごとく「気」が放出されたならば、窓ガラスか壁が破壊されるであろうところだ。
屋外に出て周囲の目も憚らずに気を練らなかった時点で、もう結果は見えていたと判断せざるをえない。



その後、彼は念力で閉まりきらなかった扉を閉めたり、ちょっと手の届かない場所にある小物を吸い寄せる事ができる「フォース」に憧れ、指先に意識を集中してみたが、結局ジェダイになる事は叶わなかった。








その集大成が、日曜の午前に散歩やジョギング、という選択肢を根底から消し去り、なるべく陽の当たるソファにダラっと座ってぼんやりと画面を見ているだけの大人になってしまった。

あの頃、毎日諦めずに鍛錬を重ねていたら、今頃は横断歩道に駐車している車を手を触れずにどかし、怒りで髪が逆立ち、自由自在に空を飛べていたかもしれないと思うと、非常に残念でならない。