HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

ショート・ショート

[「ちょうど、十年前の2月だか3月、一面に広がる重灰色の雲、ちらつく雪。白い吐息。足元には霙状になった雪。濡れている路面。
『まるで自分の事じゃないみたいね』
と言いながら部屋の荷物をダンボールに詰めている。白い大きめなセーターが白い部屋と溶けている。

実感が湧かない。

梱包と同時に、来客のあしらいもする。みな口々に別れを忍ぶ。忙しそうだ。俺ばっかりにかまってもいられないだろう。それはすぐ見て取れる。

数時間して、荷物を載せたトラックが走り出した。それを見送ってから彼女は車に乗り込んでいく。周囲の友人も寂しそうだ。
『別に会えなくなるわけじゃないし。』
そう言っていた顔が、助手席のガラス越しに何か伝えようとしている。
ゆっくりと走り出す車。オレの前を通り過ぎる間際、ガラスの向こうで、その顔はクシャクシャになっていた。
眉間に力をこめないように、不安な想いをさせないように、オレは口を開かず、じっと見送った。通り過ぎるコンマ何秒かの時間ではあったけど。
クシャクシャに泣き崩れていくあの顔は、やがて来る別離れを予感していたのかもしれない。
曲がり角を曲がって、もう見えなくなった後も、その道を眺めていた」




『随分と、リアリティのある話ね。実話なんじゃないの!?』
「ショート・ショートだってば。空想だよ、空想。」
『どうだかね〜 』
「なんだって、疑り深いなぁ! これじゃ何も書けやしないよ」
『まぁ、何を思って書こうとあなたの勝手ですけどね。妙に釈然としないこっちの気持ちも解って頂戴。』
何も言い返さず、黙って話題を終わらせようとしていた。]