HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

ボーン・ディス・ウェイ

僕はときどき歩き方を忘れる。

前を向いて右足を前に出して、今度は左足を前に出して、それを繰り返すことを忘れているわけじゃない。そんなことは頭で考えなくても体が勝手に動く。故意に認識して行っていることではない。

忘れるのは速度や歩幅、自分の身体が一番なじむ要素についてだ。
歩きはじめて少しすると、なんだか違和感に包まれる。布が水を吸うように、ギクシャクしたズレが身体に染み渡る。
やがて脹脛や太腿が張り、踵や膝に負担がかかっていく。背筋を伸ばそうとさらに強ばり、緊張する。
ほんの少しの歩行距離でも疲れ、座ることで余計に下半身への血流が悪くなり、家で寝ても回復はしない。

夏が終わって秋雨前線が停滞している。気分は晴れないし、外を歩くのも億劫だ。

ただ、これが幸いした。

小雨がぱらつく中、行かねばならない所があったので出かけた。両手は荷物で塞がっていたので、傘は差さなかった。
途中雨がやや強くなってきたので、歩速を上げた。両手は荷物が振り子の重りのようになり大きく前後した。
その時、身体に在った違和感が消え、軽くなった。今の状態、これこそが僕自身の「歩き方」だった。
通りすがる商店のウィンドウに自分の歩き姿が映る。背筋は自然と伸びていた。


何かのきっかけで、僕は知らず知らずのうちに自分の歩く速度を弛めていたのだろう。気づかずに自分で自分を蝕んでいた。

ただ続いている道を歩くだけでこうなのだ。
これから先にある生きていく道、僕は自分の思うままの速度で歩いて行こうと思う。